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幸運の壷

 和也は誰が見ても元気が無さそうな様子でとぼとぼ歩いていた。
 親切な人が見たら、『どうしたんですか。大丈夫ですか』と思わず声を掛けたくなるような有様だ。
(今度のバイトもダメだった……。明日からどうしよう……。もう食べる物もほとんど残って無い……)
 和也がバイトをすると必ず何かが起こり、決まって首になってしまう。
 今度のバイトでは、お客にアブナイ感じの人が来て難癖をつけられ、問題になるのを恐れた店長に首にされてしまった。
 その前の店では古参のバイトに気に入らないと虐められ、あることないこと失敗を押し付けられて首になった。
 ここならイジメは無いだろうと、こじんまりした家庭的な所へバイトに入ったら、オーナーの田舎の親御さんが病気になり店を畳むことになった。
 大きいチェーン店なら大丈夫だろうと入ってみたら、倒産してしまった。
 ここまでついてないことが続くと、自分は不幸を呼ぶ男なのかと思わずにはいられない。

 そもそも和也が不幸なのはバイトに限った事ではなかった。
 和也は幼い頃に父を亡くし、母と二人でつつましく生きてきたが、その母も和也が高校のときに亡くなった。
 数少ない親戚はみな貧乏で、どこも自分を引き取ってくれない。
 仕方なく和也は少ない遺族年金と生命保険を元に、バイトで一人暮らしを始めた。親戚は悪いと思ったのか保証人にはなってくれた。それだけが不幸中の幸いだ。
 不幸なことはそれだけではない。
 小さいことだと、赤信号にかかりやすい、よく頭に鳥の糞を落とされるなど。
 中くらいのでいうと、試験のヤマは必ず外れるし、くじとか抽選というものに当たったためしがない。怪我が絶えなくて、生傷がいっぱいある。そのせいで周りの人間にはおっちょこちょいの天然だと思われている。
 極めつけは受験の失敗。センター試験は前日から熱を出し試験は散々の出来。二次で挽回できず、結果はもちろん不合格。
 予備校に通うお金がない和也はバイトをしながらの自宅浪人になった。
 和也は不幸自慢をやらせたら誰にも負けない自信があった。

 貯金はもう底を付いた。遺族年金は三月で終わってしまった。もう食べ物を買うお金もない。
(未成年でも生活保護って受けられるんだろうか。それより生活保護をもらいながら浪人して大学を狙ってもいいのだろうか)
 亡き母の『人様に迷惑をかけてはいけない』という言葉を守り、それだけはすまいと思っていたが、そうもいかなくなってきた。
 残る財産は母が身を削って貯めてくれた定期預金約百万だけだ。だがこれは大学の学資で手を付けるわけにはいかない。
 高卒だった母は和也が大学へ行くことを何よりも楽しみにしていた。だからどうしても大学には入りたい。
 すぐに出来ることといえば、部屋の中にある物を売ることしかない。
 でも、和也の1Kの安アパートに金目の物はない。生まれたときから貧乏なのだから当たり前だ。
 いや、一つだけあった。形見の壷だ。
 壷は両親が結婚して間もない頃に近所のゴミ捨て場で拾った物だそうだ。結婚当時から生活が苦しかった両親は、結婚記念として長年大切にしてきた。
 見た目はかなり古い。数百年前の物と言われたら信じそうなくらいだ。古そうというより、和也に言わせれば薄汚れたというほうが正しい気もする。
 両親はこれは高いものだと信じていた。そして、もうどうしようもなくなったら、この壷を売りなさいと言っていた。
 生前の言葉通りこの壷を売ることしか、和也には策が思いつかなかった。両親の形見でも命には代えられない。

 和也はタウンページで近所の骨董屋を探して壷を見せた。
 どこへ行っても数千円と言われてしまう。中にはタダなら引き取るという店もあった。それくらいなら売らないで飾っておく方がましだ。
 自転車で行ける範囲の店全部を回って疲れ果てた和也が、パンクした自転車を押して力なく家路に向かっていると、ある看板が目に入った。
『何でも買います』
 ダメ元だ。これで最後にしよう。和也はそう思いながら店へ近づいた。

 古ぼけた外観と同様に、店内は怪しい雰囲気でいっぱいだった。
 薄暗い店内には歩くのが難しいほど品物が詰め込まれている。さらに、所々崩れて通路に品物が転がっている。
 これだけ物が多いと掃除できないのか、品物には指で跡が付くほど埃が溜まっている。
 あまりに雰囲気が有りすぎて、和也はビビってしまう。
 ここは素人の来る店じゃない。和也が踵を返そうとしたとき、店の奥からしわがれた低い声が聞こえてきた。
「何か御用ですか」
 声はしわがれ過ぎで何を言ってるのか聞き取りにくい。店の奥は暗くて声の主の顔は見えない。
 声からするとかなり年を取った男性のようだ。
 和也は逃げ損なってしまった。
「あ、あの、壷、壷を買ってもらえないかと」
「壷ですか」
「はい、壷です」
「結構です。申し訳ないですが、脚が悪いので、こちらへ持ってきてくれませんか」
 こうなったら覚悟を決めるしかない。和也はびくつきながら奥へ進んだ。

 店の奥にぼんやりと人影が見える。
 この人かと思い和也が近づいたところで、ロウソクに火が着けられた。
 オレンジ色の光の中に声の主が浮かび上がる。
 和也は只者ではないと直感的に思った。
 店内の怪しさに負けず劣らずの雰囲気がある。
 これほど顔中が皺だらけの人間を見たことがない。皺の中に目が埋まり、どこにあるのか分からない。
 頭は禿げ上がっているのに、白く長い眉毛とあごひげ。
 背中は折れそうなほど曲がり、前へつんのめりそうだ。
 何歳か見当が付かない。百歳だと言われれば、誰もが納得するくらい年を取っている。
 だが、老人の風体と言葉の丁寧さに和也は大きな違和感を感じる。
「その壷ですか」
 和也は老人の雰囲気に飲まれて声が出ない。口の中が乾いて舌が上あごに張り付いている。
 黙ったままダンボールに入れた壷を目の前の人物へ渡した。

 老人はこれ以上はないゆっくりとした動きで壷を取り出し、ロウソクの火にかざした。
 どこにあるか分からない目を細めている(ように和也には思えた)。
「ほう、ほう、これは、なんと珍しい物を」
(珍しい? ひょっとして高いの?)
 和也は急に元気が出てきた。当面の食費ぐらいにはなるかもしれない。
「古いんですか」
 古い物とは思っていたが、想像以上に古い物なのかもしれない。
「この壷は不幸の壷と呼ばれています。またの名を幸運の壷。戦時中に行方不明になっていたが、こんなところに在ったとは」
 老人の声はとても感慨深げだ。
「どんな壷なんですか」
 老人の勿体をつける話し方に和也は少しイラっとしてしまう。
「この壷がいつどこで作られたかは分かりません。古さと作りから昔の中国で作られたのではないかと言われています。鎌倉時代には日本に伝わり、各地を転々として権力者の間を渡り歩きました。この壷が珍重される理由……。それは、この壷が運を吸い取るからです」
「へっ」
 話が急に胡散臭くなり、和也は身構えた。
 世の中に美味しい話は転がっていないのだ。転がっていても自分のところには決して来ない。急にばかばかしくなってきた。一瞬でも期待した自分に腹が立つ。
 老人は和也の様子など意に介さず話を続ける。
「この壷は口を上に向けて置いておくと持ち主の幸運をどんどん吸い取って溜め込んでしまう。逆に、口を下に向けて隙間を空けて置いておくと溜った幸運をどんどん吐き出してくれる珍しい壷です。ところで、この壷はどこで手に入れました」
 和也は母親から聞いた話と今までのことを話した。
「二十年近く家族の運を吸い続けたのなら結構な量の幸運が溜ってるのじゃないかな。それに、捨てられていたということは前の持ち主の運も溜めているかもしれません」
 店の雰囲気同様のあまりに怪しい話に和也は逃げ出したくなってきた。この老人はボケてるに違いない。
「いくらで引き取ってもらえますか」
 和也は値段を聞いてさっさと終わらせようとした。
「壷代五百に、溜った幸運分で五百、合計一千でどうですか」
 千円。それだと数日の食費にしかならない。
 やっぱりダメか。和也は最初期待しただけに大きく落ち込んだ。
「千円ですか……」
「違う、違う。一千万円」
「えっ。ええええぇーっ。い、いっ、せん、まん、えん」
 和也の日常生活とは違う世界の金額に、和也はアホみたいな声を出してしまう。
 こんな壷に一千万も出す人がいるのか。一千万は買値だから売値はそれ以上だ。とすると、運がどうのという話も本当なのか。和也から急に現実感が喪失する。
「この壷にはそれだけの価値があります。いろんな使い方ができますから。例えば、嫌いな奴に送って不幸にしてやったり、しばらく人に貸して幸運を吸い取らせた後に壷を取り返してその運を奪うこともできる。若いうちに幸運を貯めといて年を取ってから楽をしようとか、運が良い時には貯めて運が悪い時に取り出すとか、自分が苦労してでも大切な人を幸運にしてやろうとか、色々なことができます」
 和也は混乱して言葉が出ない。
「信じてませんね」
 老人はそう言いながら机の上へ札束を積み上げ始めた。封をされた百万円の束が十個。現金で一千万円の山ができる。
「本物のお金ですか」
 こんな怪しい店に現金で一千万もあることが信じられない。
「まだ疑うなら、一緒に銀行へ行きましょう。車椅子を押してもらわないといけませんが」
 この老人の話すことは本当のことなのか。本当だとすると、両親が苦労したり早く死んだのは、この壷のせいということになる。
 一千万もあれば就職するまでお金に困ることはない。喉から手が出るほど欲しい。
 しかし、両親の命を奪った形見の壷を簡単に手放して良いのか。
 この店で一千万なら他の店でもっと高く買ってくれる可能性もある。
 和也は考えれば考えるほど分からなくなってきた。
「とりあえず、もう少し考えてみます」
「早くしてくださいな。ワシもいつお迎えが来るか分からんですから」
 和也は軽くお辞儀をすると壷を大切に抱き、出口へ向かって歩いた。
 途中ふと振り返ると、ロウソクの火は消され、すでに老人の姿は闇に紛れていた。
 途端に今までのやり取りが幻だった気がしてきた。
 だが、ロウソクを消した時の少し甘い残り香が、夢ではなく現実のことだったと和也に教えてくれた。

 家に帰っても和也は半信半疑だった。
 本当だと思う気持ち。一千万あったら何を買おうと妄想する。嬉しい反面、壷に対する憎しみが湧いてくる。
 嘘だと思う気持ち。詐欺か何かで自分を嵌めようとしている疑いをぬぐいきれない。しかし、自分をだましたところで単なる貧乏学生から巻き上げられるお金などほとんどない。臓器でも取るつもりか。
 一晩悩んでも考えを決められない。
 結局和也は悩んだ末、壷を逆さまにして置いてみた。話が本当なら、幸運が訪れるはずだ。
 自分のような超不幸体質の人間に、もし良いことがあれば話に信憑性が出てくる。
 結果は和也が想像していたことをはるかに超えていた。

 和也が信じられないことに、次の日から今までの不幸体質が嘘のように小さい幸運が続々と起こった。
 街を歩けば綺麗なお姉さんに道を尋ねられ、笑顔でお礼を言われる。
 信号は和也専用になっているかのように、ちょうど良いタイミングで青になる。
 新しいバイトもすぐに決まり、食費を前借りすることもできた。
(単なる偶然だ)
 和也はそう思い込もうとしていた。和也の頭は老人の話を信じることを拒否している。
 非科学的すぎる。
 その日の夜、和也は窓を開けて涼んでいた。部屋にクーラーなんか無いし、もし有ったとしても電気代がもったいなくてつけられない。
 梅雨の合間の夜は空気がねっとりと体にまとわり付いてくる。
 小さい頃からエアコンの無い生活に慣れているが、不快なものは不快だ。
 和也はうちわで扇ぎながら、例の壷をどうするか考えていた。
 その時、夜の町に言い争う声が聞こえてきた。
 この辺りは柄の良くない所だ。多少の物音では人は家から出てこない。係わり合いになるのが嫌なのだ。
 だが和也は気になって窓からのぞいてみた。一方が若い女性の声の気がしたからだ。
 車がすれ違うのがやっとの道路にワンボックスが止まっている。エアロパーツで改造された、いかにも悪そうな奴が乗ってそうな車だ。
 後部ドアが開かれ、数人の男が若い女の子二人を車の中へ押し込もうとしている。
 女の子は声を上げながら抵抗している。
(やばい)
 和也は反射的に携帯を掴むと部屋を走り出た。
 焦って走りながらなので、携帯のボタンを上手く押せない。

「警察が来たぞー、逃げろー」
 和也は走りながら叫んだ。とっさに他の言葉を思い浮かばなかった。
 しかし、運が良いことに、その言葉で事態が解決へ向かう。
 そこから先は展開が急すぎて、和也に現実感が無いまま話が進んでいった。
 男達は女の子を拉致するのをあきらめ、車に乗り込むとタイヤを鳴らして走り去って行った。
 女の子二人のうち、背の低いほうは泣き続けていて、もう片方はそれを一生懸命なだめていた。
 そして、数分しないうちに最初のパトカーがやってきた。
 それからは事情聴取が続き、警察署へ連れていかれ、結局解放されたのは真夜中のことだった。
(やつらが逆恨みして復讐に来たらどうしよう)
 和也は心配になったが、命まで取ることはないだろうと、そのまま眠りに付いた。

 拉致未遂事件の次の日、朝から和也は予想もしていなかった訪問を受けた。
 坊主頭で黒服に黒いサングラスを掛けた妙に体格の良い男。
 小太りで頭のてっぺんが禿げた陽気で下品なオジサン。
 昨夜助けたらしい女の子二人(暗かったし、興奮していて顔をよく見てなかった)。
 背の高いほうは色白短髪メガネ巨乳。低いほうは清楚長髪美少女。
 話を聞くとオジサンが父親で、女の子二人は姉妹。背の高いほうが姉の翠《みどり》で低いほうが妹の瑠璃《るり》。ハゲ親父は会社の社長さんで、黒服は運転手兼ボディガード。
 この三人が家族とは信じられない。三人は血が繋がっているようには見えない。タイプが違いすぎる。
 和也はマンガだと思った。それも読者全員がどうしようもないと思うレベルのベタな話。
 今まさに、そんな状況に置かれていた。
 姉妹は昨夜、ピアノ教室の友人(家庭の事情でピアノを止め、ここの近所に引越)宅を訪問しての帰りに襲われたそうだ。
 和也が呆然とする中、ハゲ親父の今時そんなストーリー誰も使わないというくらいベタな話が続く。
「あなたは娘達の命の恩人だ。助けてもらわなかったら、今頃殺されてどこかの山の中に捨てられているところだった。お礼にこの二人を好きにして欲しい」
「ワシは運とか縁をとても大切に考えている。これは運命だ」
「この部屋に三人で住むのは狭すぎる、近くにマンションを用意したのでそちらへ移って欲しい」
 あまりに大げさでおかしな話に和也は苦笑しそうになる。
 運命ってことはないし、最悪でもレイプされて写真を撮られておしまいだったはずだ。殺されることはないだろう。
「えっと、その……」
 和也がしゃべろうとすると、突然どやどやと人が入ってきた。
 テレビでよく見る引越屋さんの制服を着ている。
 和也の話も聞かずに、引越屋さんが荷物を運び出す。極端に荷物の少ない和也なので一時間も掛からず全ての荷物が運び出されてしまった。
 和也はアワワワワと言葉を失ってしまう。話の流れについていけない。半ば放心状態の和也は、いかにも金持ちが乗りそうな高級車に乗せられた。
 引越先は元居た所から一駅離れた隣町のマンションだった。3LDKで各種設備がフル装備の豪華な部屋だ。
 和也が部屋に入ってからも、次々と業者の人間がやってきては、色々なものを設置していく。姉の翠がテキパキと指示を出す。
 テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、ベッド、ソファー、テーブル、食器棚、カーテン……。

 全ての業者が帰ったのは夕方近かった。
 人生が一変して和也は頭が本当に真っ白だ。どうして良いか全く分からない。
「お疲れでしょう。お風呂が沸いています。お先にどうぞ」
 そう言って色白巨乳の翠が和也に着替えとタオルを渡してくれた。
 和也は思考が停止してしまっている。ロボットのように言われるがまま風呂に入った。
(どうなってるんだ)
 自分が初めて来た所で風呂に入っている事実が信じられない。
 昨日の拉致犯の男達に見つかり、ボコボコにされる状況のほうがまだ納得できる。
 和也がお湯に浸かり呆然としていると、戸の外で人の気配がした。
「失礼します」
 翠が声を掛けながら戸を開けた。翠の後ろには妹の瑠璃が従っている。
(そこまでするかっ)
 まさか、お背中流しますなんて超ベタなことまでやってくるとは思っていなかった。
 姉妹はお揃いの競泳水着みたいなのを着ている。
 布地が体に張り付いているので、二人のスタイルが丸分かりだ。
 姉のムチムチ巨乳に対して、妹は華奢で胸はとても控えめなド貧乳。
 姉の巨尻に対して、妹は小振りのお尻。
 この二人はスタイル以外にも色々なことが両極端だ。
 姉の癖毛っぽくカールしたショートカットに対して、妹は背中の中ほどまであるストレートロング。しかも今はツインテールにしている。
 姉のメガネに対して、妹はメガネ無し。
 姉の積極的な態度に対して、妹は大人しくおどおどしている。
 和也は『わざとか。わざとキャラを違えてるのか』と思ってしまう。
「体、洗いますね」
 翠が当たり前のように言った。翠の手が体に触れて、和也は正気に戻った。
「いや、いいから。自分で洗うから」
「任せてください。私は子供の頃から妹を洗ってきましたから上手ですよ」
「だから、いいって」
「じゃあ、頭からいきますね」
(この人、俺の話を聞いてくれないよー)
 和也は頭の上からシャワーでお湯を掛けられた。そこから先は流れるような手際の良さで体中を洗われる。
 なんだかんだ言っても、人に頭を洗ってもらうのは気持ち良い。その気持ち良さに負けて、途中で断れなくなってしまう。
 さらに翠は和也の背中に胸を押し付けてきた。
(当たってる。当たってる。背中に柔らかい物が当たってるよー)
「どこか、痒いところはないですか」
 翠は胸のことなど平気な様子で和也に聞いてくる。というか、わざと押し付けて和也の反応を楽しんでいる気がする。
「ないです……」
 何も悪いことはしていないのに、自然と和也は萎縮してしまう。
 童貞の浪人生が背中におっぱいを押し付けられたら、どうして良いか分からなくなって当然だ。
 翠がさらに追い討ちを掛ける。
「瑠璃は和也さんの体を洗ってあげて、まずは腕からよ」
「うん」
 瑠璃が小さな声で返事すると、手にボディソープを取り泡立て始める。
(どうすんの、それ。まさか、ひょっとして、そんな)
 和也が動けないでいると、妹は素手で和也の体を洗い始めた。
「うっ……」
 くすぐったいような初めての感覚に思わず声が出そうになるのを何とか飲み込んだ。
 頭を洗い終わった翠も参加して二人がかりの素手洗いを和也は必死で耐えた。
 手の感触だけでもヤバイのに、視覚はさらにヤバイ。姉は巨大な胸とお尻を突き出し、妹はスラリと伸びた手脚を露出させている。目のやり場に困ってしまう。
 姉の肉感的な体に妹のロリっぽい体は、和也の一部を元気にしてしまう。
 股間はタオルで隠しているが、翠がその中へ手をもぐりこませようとするのを死守する。
 姉妹が洗い終わった時、和也は我慢疲れと抵抗疲れでぐったりしていた。

 風呂でのぼせた和也が冷たい水を飲みながら涼んでいると、夕食の準備が整った。
 夕食はこれまたベタな展開なことに、和也の見たことも無い料理が並んでいた。
 大量にある黒くて小さい粒々。これは、あのキャビア?
 表面に焼け目がついた物体。肉ではない。ひょっとしてフォアグラ?
 パスタに乗っている霜降り状の薄い物体。まさか白トリュフ?
「引越祝いと和也さんと一緒に住む記念を兼ねて頑張ってみました」
 翠が自慢げに言う。瑠璃も小さくうなずいている。
 ここのところ食費にも事欠いていた和也は貪るように食べた。
 貧乏舌の和也は大抵のものは美味しく感じる。今はそれに空腹、高級食材という条件が加わり、この世のものと思えないほどの美味しさだ。姉妹の料理の腕も良いのかもしれない。
 和也用に白いご飯も用意されているのが、ありがたかった。
 和也は食べに食べたが、その間もベタな展開が続いていた。翠は給仕をしながら過剰なまでに体を接触させてくる。
 ご飯のおかわりの時にはわざと手に触れるし、お茶を入れる時には和也の肩に巨乳を乗せようとする。
 和也はドキドキしながらも食欲に負けて、注意することができなかった。

 夕食が済んだら、和也は一人テレビを見ながら時間を潰した。
 姉妹は仲良く後片付けをしている。
 和也の頭の中では天使と悪魔が激しく争っていた。
『こんなに簡単に体の関係を結んだらダメだよ』
『向こうが食べてくださいって言ってるんだから素直に食べちゃえばいいんだよ』
『相手は高校生だし、自分は浪人中の身でしょ』
『高校生でエッチなんて普通の事。童貞捨てるチャンスだよ』
 和也が一人悶々としていると片付けを終えた姉妹が和也の元へやって来た。
(えっ、もう、どうしよ)
 心の準備ができていない和也はうろたえてしまう。
 翠が脚を伸ばして座った。
「ここに、頭を乗せてください」
 そう言って、自分の太ももをポンポンと叩く。
(何? 何するの)
 和也は恥ずかしいので翠のつま先の方を向いて頭を乗せた。
 太ももが柔らかくて、ほっぺたが気持ちいい。それに良い匂いがする。
「耳そうじをしますね」
 人にやってもらうのは何年ぶりだろう。小学校くらいに母にやってもらったのが最後か。懐かしく思ってしまう。
 翠は慣れているのか、とても上手かった。強すぎず、弱すぎず、ちょうど良い力加減でカリカリこすってくれる。和也はうっとりしてしまう。
「こっちは終わりです。反対を向いてください」
 和也が反対を向くと反対側のほっぺたが気持ち良い。それと同時に困ったことが発生した。目の前に翠の股間がある。和也は見る側なのに、猛烈に恥ずかしくなる。仕方なく目をつむる。
 しばらく至福の時間が続いた。

「耳そうじは終わりです。次は歯磨きです。上を向いて口を開けてください」
 いい気持ちになっている和也は言われた通り、膝枕のまま上向きになって口を開ける。
 目を開けると上から覗きこむ翠と目が合いそうになる。自分が赤ちゃんみたいな気がして猛烈に恥ずかしい。
 からかわれてるんじゃないかと思ってしまう。
 翠は笑顔で、悪意があるようには見えない。和也は目を閉じ、翠に任せた。
 翠が歯磨き粉をつけない歯ブラシでマッサージするかのように歯を磨く。
 人に歯を磨かれるのが、こんなに気持ち良いとは和也は知らなかった。
 ちょっとくすぐったいけど、口の中を丁寧に愛撫されてる感じ。眠たいようなふわぁーとした気持ちになってくる。
「小さい頃はいつも妹の歯を磨いていたんです」
 翠は世話好きなんだと和也は思った。

 歯磨きも終わった和也はふわぁとした、いい気持ちになっていた。
 現状に対する戸惑いは綺麗にどこかへ行ってしまっている。
「今日は疲れたでしょう。もう、お休みになってください。ベッドの用意がしてあります」
 和也が言われた部屋に行くと確かにベッドが用意してあった。
 和也は貧乏性だから広い部屋に一人で落ち着かない。昨日まで布団だったのでベッドも慣れない。
 寝付けずに何度も寝返りをしていると、ドアがノックされた。
 和也が返事をすると、翠だった。
「一緒に寝ても良いですか」
 枕を抱えた翠、その後ろには同じく枕を抱えた瑠璃。
 またしてもベタな展開に和也はクラクラしてしまう。
 二人とも緩めのTシャツに短パン。かなりエッチな寝巻きだ。
 まさか、ノーブラ? 膨らみの先に小さいポッチがあるようなないような。
 短パンはとても短く脚のほぼ全部が見えている。しかも、脚との間に大きなゆとりがあるので、簡単に手が入りそうだ。まさにイタズラしてくださいと言うような服。
 和也は一気に頭に血が昇った。
 この状況を断れる男はいない。というより、興奮しすぎて頭が動かない。
「あ、あぁ」
 あいまいな返事しかできなかった。

 左に姉、右に妹。二人とも横向きで和也のほうを向いている。
 和也の腕にちょこんとくっ付くようにして寝ているので、和也の両腕には二人の胸が軽く当たっている。
 姉妹は早くも寝入っていた。よく考えたら色々なことが起きたのは姉妹も同じだ。というか姉妹のほうがきつい経験だ。疲れたのも無理は無い。
 そんなことよりも和也は重大な問題に直面していた。
 どちらも向けない。どちらかへ向くと顔が危険なほど近づいてしまう。何かの拍子に唇が触れてしまう。
 姉はともかく妹は特にヤバイ。淫行条例で捕まる。
 和也の股間は完全に元気になっていた。この状況で元気にならない十代の男はいない。
 和也は両手で股間を押さえて動けない。動くと乳房が擦れる。
 欲望を抑えるので大変だ。和也は結局朝方まで寝られなかった。

「…………さい。…………起きて、朝ですよ……」
 誰かが何かしゃべってる。そして、体を揺さぶっている。
「和也さん。朝ですよ。起きてください」
 あまり寝た気がしない。まぶたがかなり重い。それでも、がんばって目を開けた。
 目の前には翠の顔があった。とても近い。
 驚いた和也は飛び起きる。あやうく頭をぶつけそうだった。
 姉は名門私立の制服を着ていた。
「朝ご飯できてます。顔を洗ってきてください」
 タオルを渡された和也は洗面所へ向かった。
 顔を洗った和也がふと横を見ると、洗濯機の横に洗濯物を入れるらしきカゴがあった。そして、お約束どおりカゴの中にはカラフルな下着が入っている。
 手が伸びそうになる。見るだけ。ちょっと見るだけだから。
 巨大なブラは翠のものに違いない。ブラを持ち上げると、その下には見てはいけないものが有った。
(パ、パ、パパパパ、パンツ……。パンツも、あるよ……)
 ブラとお揃いの白いパンツは翠のだろう。水色と白の縞パンは瑠璃の物だ。
 あんな大人しそうな顔をして縞パンとは。和也はやられたと思った。

 和也が戻ると、姉妹はエプロン姿だった。姉はエロ可愛いし、妹は超可愛い。
 思わず頭に裸エプロンが浮かぶが、頭を振って考えを追い払う。
 朝食にしては豪華な食事を終えた三人は出かける準備を急ぐ。
 バイトに出るにはまだ時間の早い卓也はのんびりしても良かったが、翠に『道がよく分からないので駅まで送って頂けないですか』と言われ、一緒に駅まで行くことにしたのだ。
 駅へと向かう道では、すれ違う人がじろじろ見たり、振り返ったりしてくる。
 美少女二人に男が一人の組み合わせは確かに珍しい。
 こんな状況に慣れていない和也は赤面してうつむき加減で歩いていた。
 そんな和也をまたしてもベタな展開が待っていた。
 姉妹は電車通学が初めてだったのだ。今までは車で通学していたらしい。
 和也も電車通学をしたことが無い。高校時代は自転車だった。
「一度満員電車に乗ってみたかったんです」
 翠ははしゃいでいる。大人しい瑠璃も少し舞い上がっているように見える。
 不安になった和也は二人が降りる駅まで付き合うことにした。
 思った通りというか案の定電車は満員だった。
 三人は人ごみに揉みくちゃにされる。
 何個目かの駅で人が動いた結果、姉妹の体は和也にぴったり押し付けられ、二人の脚の間に和也の脚が入り込み、二人の股間が和也の太ももに当たってしまっている。
 まずい体勢に和也はいたたまれない。
 しかも電車の振動で太ももが二人の股間をこすってしまう。
「動いちゃダメです」
 翠が小さい声で和也に訴えるが、この人ごみでは和也はどうしようもない。
 瑠璃も顔を真っ赤にして必死に何かに耐えている。
 二人はどんどん息が荒くなっていき。潤んだ目で和也を見つめてくる。
 太ももにあたる柔らかい感触、痴漢に間違われかねない状況、和也は生きた心地がしない。
 二人の表情は切羽詰ったものになっていき、和也に抱きつかんばかりに寄りかかっている。
「あ……」
 翠の口から、誰が聞いてもごまかしようの無いエッチな声が出る。
 和也は二人の昂ぶりがうつり、さらに恥ずかしさも加わり、慣れない人ごみも手伝い、倒れそうなほど頭がクラクラしている。
 三人が限界を超えようとしたとき、ようやく電車は目的の駅に着いた。
 そのときには三人ともフラフラになっていた。
「明日からは車を頼んだほうが良いんじゃない」
 和也が言うと、
「そうします」
 翠は素直にうなずいた。

 壷を逆さまにして、まだ二日しかたってない。それなのに、この環境の激変ぶり。
 これからどうなるんだろう。和也は壷の力は本当かもしれないと思い始めていた。
 姉妹を見送った後、まだ時間のある和也はもう一度あの店へ行ってみた。
 怪しい雰囲気はそのままだが、戸は閉じられ、閉店と書かれた紙が張られていた。
 戸の内側にはカーテンが掛けられていて、中の様子をうかがうことはできない。
 やっぱり、そうだろうなと和也は思った。
 ここまでベタすぎる流れだったから、最後もベタになって当たり前だ。
 それにしても、もう一度あのおじいさんと話がしてみたかったと和也は思った。



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