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書霊:第一話

 冬休みの間に研究を重ねた俺は、学校へ向かった。
 健全な高校生男子が第一に考えることといえば、カノジョのことしかない。
 それは隠れオタの俺でも同じことだ。可愛くて、スタイルが良くて、性格の良いカノジョが欲しい。さらに、エッチで俺の趣味を許容してくれる女の子なら言うことない。
 オタといっても俺はゆるいオタ、『ゆるオタ』だ。アニメ、漫画、ゲーム、パソコン、アイドルなどをそれぞれ中途半端に詳しい。
 顔は普通、成績は中の上、スポーツは苦手、得意なことは特に無し、クラスでは目立たないほう。そんな俺に生まれてこのかたカノジョはいないが、力が有ることが分かった以上、使わないなんて考えられない。
 相手は福田沙織。この学校ナンバーワンの美少女だ。
 入学式で一目見てから彼女のファンになった。
 身長は俺と同じくらいで170cm弱はある。女子の中ではかなり高いほうだ。髪は背中まである黒いストレート。顔はそこいらのB級アイドルでは太刀打ちできないほど可愛い。可愛いだけでなく、清楚や儚さまで併せ持っている奇跡の顔だ。
 手脚はスラリと細くて、長い。すごく華奢な感じがする。
 唯一の欠点は胸がほとんどないこと。おそらくAカップではないかと思われる。だが、彼女と付き合えるなら胸の大きさなんか関係ない。貧乳バンザイだ。
 それだけ美しいだけあって、告白されたという話は何回も聞いたが、誰かと付き合っているという噂はない。
 派手なこととか、浮ついたことに興味がないというか、嫌いらしい。彼女の周りでは、もったいないとか言っているが、本人は気にしていないようだ。
 その沙織と俺は一年生のときに同じクラスだった。その頃は学校に行くのが楽しかった。ただ彼女を見るだけで幸せな気持ちになれた。ほとんど話をすることもなかったが、たまに話せた時は、自分が舞い上がっていることを隠すのに必死だった。ツレは何も言わないが、間違いなく気付いていたと思う。
 だが、沙織とは二年になってクラスが分かれてしまった。俺は理系、沙織は文系のクラスへ進んだのだ。
 それ以来、たまに廊下ですれ違ったり、遠くから姿を見るだけになってしまっている。
 告白するとしたら沙織しかいない。このままでは三年になっても同じ状態が続き、卒業したら二度と会えなくなるかもしれない。
 俺は決心して、全身全霊を掛けてラブレターを書いた。何度も何度も推敲を重ね、ネット上の告白文、ラブレターを参考にし、今までの力の研究結果を踏まえて書き上げた。そして、彼女のカバンに忍び込ませたのが四日前だ。
 入学式で一目惚れしたこと。それ以来ずっと好きだったこと。どれくらい好きか。付き合って欲しいこと。便箋二枚にわたり、びっしりと書き込んだ。そして最後に直接会って返事が欲しいから、都合の良い日を教えて欲しいと書いた。
 その返事がついに届いたのだ。
 俺は震える手で封筒を開き、便箋を取り出した。そこには彼女らしい綺麗で丁寧な字で返事が書かれていた。
 手紙をもらって嬉しいこと。土曜日の十時に三鷹駅近くの喫茶店で会いたいことが書かれていた。
 俺は二回読んで内容を確認すると、ベッドの上でころげまわって悶えた。
 彼女と二人きりで会える。それだけで、人生最大の幸せを感じてしまう。どうして、もっと早く手紙を出さなかったのだろう。もう、俺はOKをもらったことのようにはしゃいだ。
 うぉーと叫びながらじたばた暴れまわる俺を家族が見たら、気が狂ったと思うかもしれない。顔は崩れきっているに違いない。それほど、俺は嬉しかった。
 だが、たっぷり三十分は悶え狂った後、だんだん冷静になってきて気が付いた。まだ、OKをもらった訳ではないのだ。断られるかもしれない。そう考えると急に冷めた。
 念押ししないといけない。
 俺は駄目押しの手紙を書くために便箋を取り出した。

 金曜日まで俺は授業は上の空で沙織の事ばかり考えていた。ツレと一緒に居るときも、考えるのは沙織の事ばかりで、とんちんかんな返事をしてツレが心配するほどだった。
 そして、ついに土曜日が来た。
 俺は隠れオタなので、擬装用に普通の人が着る服も持っている。俺の服は母と妹が一緒に選んでくるので、そこそこセンスが良い。といってもヨーカドーやユニクロがほとんだが。
 俺は妹を呼び、コーディネートさせた。俺が自分で考えるよりかはましだろう。
 渾身の力で書き上げた手紙を胸に約束の店へ向かった。

 俺の家の最寄り駅JR武蔵境から一駅で三鷹駅だ。約束の十分前に店に着くと、すでに沙織は店の入り口近くで立って待っていた。
 彼女の私服姿に俺はクラクラしてしまう。制服姿でも十分すぎるくらい可愛いのに、私服はさらに強力な破壊力を持っている。俺は一目でやられてしまった。
 一番外側には春色のハーフコート。合わせ目からセーターが覗いている。セーターが体の形を浮き彫りにして小さい胸の形がはっきり分かる。下は膝上の裾が広がったスカートにブーツ。見事に清楚さとフェミニンな感じを両立させている。
 危険だ。彼女を一人にしておくと、そこら中から男が寄って来そうだ。それに渋谷辺りを一人で歩かせたら、即行でスカウトされるだろう。
 俺は彼女に駆け寄った。
「ごめん、待った」
 彼女の美しさに俺はそれだけ言うのが精一杯だ。
「いえ、さっき来たところだから」
 その涼やかで、爽やかな、高めの声が気持ち良く耳に染み込んでくる。直接彼女の声を聞くのは何ヶ月ぶりだろう。彼女の声を聞くだけで俺は興奮のあまり、鼻血が出そうになる。
「じゃ、じゃあ、入ろうか」
 俺は噛みそうになるのを何とかごまかし、声を掛ける。
 彼女がこくんとうつむいた。
 その可愛い仕草に俺は、抱き付きたくなるのを必死でこらえる。もう、その仕草だけで、ご飯を何杯でもいけそうな感じだ。
 店の中は暖かく、雰囲気が良かった。音楽がうるさくない程度に流れ、コーヒーの香ばしい香りが漂ってくる。オタとは縁遠い洒落た店だ。
 俺はスマートに彼女を先に歩かせることなどできず、自分から先に歩き、奥から二つ目、窓際のテーブル席に座った。完全にテンパっていた俺は彼女を先に座らせることなど、思いつかなかった。
 彼女はコートを脱ぎ、横へ置き、俺の目の前に座った。
 すると、マスターが絶妙のタイミングで注文を聞きに来る。
「コーヒーでいいかな?」
 彼女に聞くと、うなずいたのでコーヒーを二つ注文する。マスターも空気を呼んで銘柄はなどとややこしい事を聞いてこないのでありがたい。俺がこういう所に慣れていない事を察してくれたのだろう。
 そこまでで俺はいっぱいいっぱいだ。頭の中が真っ白になって、何をするか完全に飛んでしまった。昨日までに、店に入ったらどうするかを何度も脳内シミュレーションをしたのに全く役に立たない。
 彼女の顔を直視することができず、どうしても目が下の方を向く。そうすると彼女の控えめで柔らかそうな胸の膨らみが目に入り、さらに興奮してしまう。
 俺が緊張と興奮のあまり何も話せないでいると、またマスターが絶妙のタイミングでコーヒーを運んできてくれた。さすがプロだ。空気を読みきっている。この店、ひいきにしちゃう。
 コーヒーを一口すすり、俺はわずかばかり落ち着いた。それでようやく口を開くことができた。
「今日は来てくれてありがとう」
「いえ、私もお手紙もらってうれしかったから」
「あ、あの……」
「なに?」
 ここが勝負どころだ。頭の中でもう一人の俺が、うるさいくらいにゴーサインを出している。
 行け、行け、行け。
「あの……、返事を聞く前に、直接会うと緊張して話せなくなるので、この前の手紙の続きというか、俺の思いを書いてきたんだ。読んでもらえるかな」
 俺は何とかそう言うと、内ポケットから封筒を取り出し、彼女に渡した。
 彼女の細くてしなやかな指が封筒を受け取る。
 彼女は黙って、便箋を取り出し、静かに読み始めた。
 二人の間に静かな時間が流れる。店内に他の客は居ない。居るのは俺と彼女とマスターだけ。だれも喋らない。BGMの音楽だけが流れている。
 俺は極限までドキドキしながら、彼女が読み終わるのを待った。こんな緊張感は今まで味わったことがない。この瞬間に比べれば高校入試の面接などコンビニで肉まん一つと言うくらい簡単なことに思えてくる。
 きっと成功する。成功する。成功する……。
 俺は心の中で何度も念じた。
 無限とも思える時間が過ぎて、彼女がようやく顔を上げた。
 彼女と目が合う。
 俺の緊張と興奮は極限まで達した。もう殺してくれーと叫びながら逃げ出したい気持ちだ。この緊張がもう少しでも続くと俺は叫びながら店を飛び出してしまうだろう。
 そして彼女が口を開いた。
「私で良ければ付き合ってください」
 俺は言葉の意味を理解するのに時間がかかった。多分、顔からは一切の表情が消えて、これ以上はないというほど呆然とした顔をしている。
 なんとおっしゃいました。
『私で良ければ付き合ってください』
 何度も頭の中でその言葉を繰り返した。それって、付き合っても良いって事?
 確かに聞いたよな、幻聴じゃないよな。
 視界がばやけていたが、だんだん焦点が合ってきて彼女の顔が見えた。恥ずかしそうな顔で俺を見ている。
 ガターン。
 俺は大きな音と共に立ち上がった。何をどうして良いか分からず、反射的に立ち上がってしまったのだ。
 俺は自分の立てた音にびっくりした。周りを見渡し、マスターの視線を感じて、俺は何事も無かったように椅子に座りなおした。
 少し冷めたコーヒーを一気飲みして、ようやく自分を落ち着かせる。
「ほ、ほ、ほんとうに、いいの?」
 俺は信じられなかった。
「はい」
「で、でも、どうして。俺なんか、顔も頭も良くないし、スポーツもできないし、取り柄も無いし」
「あんな熱のこもったお手紙をもらったのは初めてです。それで、この人は真剣だし、良い人だなあと思って」
 手紙を書くときは絶対うまくいくと思って書いた。だが、渡してからは、うまくいくという考えとダメだという考えが交互に湧き上がり、不安だった。今日、本人を目の前にするとダメだという気持ちのほうが強くなった。こんな可愛い女の子が俺なんか相手にしないと思っていた。それでも俺の力なら何とかなるとかすかに希望を抱いていた。
 俺の力は本物だった。神様に感謝したい気持ちだ。
「本当に良いんだね。後悔しても知らないよ」
「あんな手紙渡したくせに今更何を言ってるの。あれから何度もあの手紙を読み返したんですよ」
 少しずつ、実感が湧いてきた。この可愛い女の子がカノジョ。明日から、いや、今からどうしよう。
 俺はOKをもらった後の事を全く考えていなかったことに気が付いた。
 とりあえず何か話をしないといけない。何を話して良いか分からず、とりあえず質問をしまくり、自分の事を話しまくった。
 俺が彼女のことで知っているのは出身中学校くらいで、あとは知らないことが多い。
 生年月日、血液型から始まって、住所、メールアドレス、携帯の番号、家族構成、趣味、好きな本、作家、歌手、テレビ番組、食べ物、お菓子など色んなことを教えてもらい、教えた。さらにはイヌ派かネコ派か、朝はパンとご飯のどちらが好きかまで夢中で話まくった。俺はゆるオタだけあって、雑学に詳しいし、幅広い知識を持っている。
 話の途中で、彼女が申し訳なさそうに言った。
「あのー……」
 それで俺は、はっと気付いて時計を見ると、もう一時間以上話しこんでいた。店もお客が増えてきて、中には早い昼ごはんを食べている人まで居る。
「あー、そろそろ出ようか」
 俺は完全に舞い上がっていて、周りの状況に全く気付いていなかった。それほど嬉しくて楽しかったのだ。
 彼女が午後は前から約束していた用事があるというので、明日また会う約束をして帰ることになった。俺は彼女が帰っていくのを姿が見えなくなるまで見送った。
 その後、俺はどうやって家までたどり着いたのか、良く覚えていない。いつの間にか家に帰り、自分の部屋に居た。
 俺は布団に潜り込んで、一時間は吼えまくった。
(うぉー、うぉー、うひぃー、ああああー)
 彼女の事を思い出しただけで、叫びたくなってくる。あの可愛い沙織が、ただ見とれるだけだった沙織が彼女になったんだ。叫ばずにはいられない。
 叫び疲れたところで、俺はだんだん冷静になってきた。
 明日どうしよう。
 明日会うことは約束したが、どこへ行くとも、何をするとも決めてない。待ち合わせの時間や場所も決めてない。
 落ち着いてくると、だんだん黒い気持ちが湧き上がってくる。沙織をどうしよう。どうすれば沙織を自由にすることができるのだろう。
 俺はパソコンを前に作戦を考え始めた。

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