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一条流の戦い:第52章

 武志が翌朝目を覚ますと、横にブリジットは居なかった。
 昨夜はブリジットが先にダメになってしまったので、武志は一人シャワーを浴びてから寝た。
 ブリジットは武志が寝ている間に部屋に戻ったようだ。
 一晩寝ただけでは使い切った気はほとんど回復しておらず、武志は体がスカスカしていた。気を使いきったのは生まれて初めてのことで、なにか違和感を覚えてしまう。
 武志はあまり音を立てないように気を付けながら、部屋の中で軽く体を動かした。その後は思い切ってフロントまで降りてジョギングコースを聞いてみる。武志のつたない英語でも話が通じてホテル周辺の地図を貰うことができた。
 さすがに高そうなホテルだけあると感心しながら、武志は久しぶりに外を走って気持ち良い汗をかく。
 サマータイムがあるアメリカは六時前でもかすかに夜の気配を残し、東雲の空という感じがする。
 朝早い時間の都心部にもかかわらず、武志の他にもちらほらと走っている人を見ることができた。健康中毒のアメリカらしいなと武志は思う。
 武志はひんやりした空気の中、十キロほど走ってからホテルに戻った。シャワーで汗を流し、一休みしながら、美咲と瞳にメールで日本到着時間を知らせる。
 エルとリサと分かれてから急に日本が懐かしく思い出されていた。別れが自分を寂しくさせているのかもしれないと武志は思った。
 メールを送り終わり、ぼーっとしているとブリジットが部屋にやってきた。
 ブリジットは昨夜の酒やセックスの事を微塵も感じさせない、いつも通りの雰囲気である。逆に今までよりいきいきしている感じさえする。一週間で溜まったストレスを昨夜で発散できたのだろう。
「おはよう、タケシ。調子はどう」
「おはよう、ブリジット。朝ごはんがまだなら一緒に行こう」
「ええ、行きましょう」
 ブリジットからはセックスをした男女のなれなれしさは全く感じられない。もっとべたべたしてくるかと思っていた武志はちょっと肩透かしをくらった感じさえする。大人の女性はちゃんとけじめをつけるのだと、少しブリジットを見直した。
 武志はお腹いっぱいに朝食を詰め込んだ。昨日までに使い切った気を早く回復しなければいけない。体力も少し落ちている気がする。
 苦しくなるほどの量の朝食を食べ終わると、もう出発まであまり時間が残っていない。
 荷物の整理もほとんどやることがないので、出発の準備はすぐに終わる。来た時に一泊と今回の一泊で合計二泊しかしていない、このホテルには愛着もないので、武志はさっさとチェックアウトすることにした。
 実際はブリジットが手続きするので、武志は横で見ているだけである。
 ホテルの入り口にはブリジットが運転してきた車が回されていて、後は乗り込むだけだ。
 車に乗るとブリジットの運転で空港へ向けて出発する。お土産も買ってあるので、空港まで寄り道する所も無い。
 別れを目前にして車内は会話が弾まなかった。ぽつぽつとブリジットが武志に話しかける。
「タケシは日本に帰ったら、何をするの」
「普通の大学生に戻りますよ」
 会話が続かない。お互い秘密が有る身なので仕方がない。
「次は、いつアメリカに来るの」
「分かりません。今の所、予定はないんです。それに決めるのは俺じゃないし……」
 二人は思い出したように時々会話をした。

 一時間もしないうちに車は空港に着いてしまう。武志はチェックインを一人で済ませると、ブリジットの元へ戻った。
「どうもありがとうございました。充実した研修でした」
 武志は右手を差し出しながら言った。
「私こそ、楽しかったわ」
 ブリジットは武志の手を握りながら言った。
「またアメリカに来たときは通訳に呼んでくれる」
「もちろんです」
 武志は最後に笑いながら答えた。もう話すことも無かった。
 時間にあまり余裕のない武志は出発ゲートに向かう。一度だけ振り返りブリジットに手を振ると、それからは振り返らずに奥へと歩いていった。
 ブリジットは武志の姿が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

 武志は出国審査を問題なく過ごす。海外旅行も三回目になると慣れてコツみたいなものが分かってきた。おどおどしないで普通にしていたほうがスムースに通してくれるようだ。それに当たり前だが、他国民は入国より出国のほうが簡単だ。
 飛行機に乗ると、食事のとき以外はほとんど寝てすごす。なにかいくら寝ても寝たり無い様な気がする。今までの人生でこれほど寝てすごしたことは無い様な気がするほど寝てしまう。
 機内上映の映画は見たことがない面白そうなアクション映画だったが、それも気にならないほど寝たかった。
 武志は結局日本に着くまでの十五時間のほとんどを寝てすごした。日本に着くのは昼すぎで時差ぼけになりそうな気もしたが、もう時差ぼけは寝て治そうと開き直っていた。
 飛行機が日本に着き、空港に降り立ち、日本語に包まれると、日本に帰ってきた実感が湧いてくる。
 飛行機は日本の航空会社でキャビンアテンダントも日本人で機内放送も日本語が主だったが、やはりどこか外国の雰囲気が残っていた。
 武志は少し辺りを見回して気が付いた。空港は日本語の広告でいっぱいである。当たり前だが日本語の文字で書かれている。日本語の文字が多いからなんだと、武志は納得した。
 アメリカにいる間も、ブリジットの少しなまりのある日本語を聞いていた。だが、日本語の文字はほとんど見ることがなかった。たった十日で日本語の文字に飢えていたんだと武志は思った。
 火曜日ということもあり、入国審査も税関も空いていて、すんなり終わり、到着ロビーへ出る。
 そこで、武志は手を振っている美咲と瞳を見つけた。
 二人を見て、武志は懐かしい感じがした。そして、この二人を裏切らないで本当に良かったと心から思う。
 思わず涙が溢れそうになるのをこらえて、二人のほうへ向かう。
 美咲と瞳も武志のほうへ駆け寄ってくる。
「おかえりー。アメリカはどうだった」
「おかえりなさい」
 二人は武志に話しかけながら、武志の両側に絡み付いてくる。
「ああ、ただいま。面白かったよ」
 武志はようやく自分のホームグラウンドに帰ったようなほっとした気分になる。
「おみやげはー」
 美咲が期待に満ちた目でおねだりする。
「ちゃんと買ってきたよ。家に着いたら渡すから」
「楽しみー」
 家に帰るまで武志は二人から質問責めにあう。どこに行ったとか、何を食べたとか、しつこく質問されてしまう。一応武志は短期の語学留学をしてきたことになっているので、なんとかぼろを出さないようにするので大変だった。
 しかし、武志はそれもうれしく思ってしまう。アメリカに居るときは、どこか緊張していた。負けられないとか、意地とか、どこか力が入っていたし、少しでも英語を聞き取ろうと集中していたこともある。
 美咲と瞳との会話で癒されていく気がする。
 重いスーツケースを抱えて、ようやく自宅に帰り着くと、武志はどっと疲れが出た。
 少しでも早く二人にお土産を渡そうと、空港から宅配便で送らずに、家までスーツケースを持って帰っていたのだ。
 父親は仕事でいないので、母親に帰宅の挨拶をすると、二人を連れて自分の部屋に行く。
 武志は荷物を置き、ベッドに横になった。やっと帰ってきたんだと、今日何度目か分からないが、ほっとする。
 そんな武志を美咲と瞳はほっておかない。
「おみやげー」
 二人が声を合わせて、武志に催促する。
 武志は仕方がないと苦笑いしながら、スーツケースを空ける。十日間も二人の事をほっておいて、他の女性と会っていたのだ、武志はチクチクと心が痛む。
 テディベアとベースボールキャップを取り出して、二人に渡す。
「きゃぁー、かわいいー、ありがとー」
「ありがとう」
 二人は十代の女の子らしい反応で喜び、武志にお礼を言う。
 武志は二人に喜んでもらい、ほっとする。日本にかえってからは安心しっぱなしで、心が緩みっぱなしだ。
 二人はさっそく帽子をかぶり、鏡をのぞいている。かぶり方を変えたりしながら、二人できゃーきゃーとかしましく話している。
 そんな二人を見て、武志はいとおしく思い、心の底からアメリカに残らず日本に帰ってきて良かったと思った。

 翌日武志は頼子の元へ向かった。
 まだ時差ぼけの残る頭に鞭を打って、自分を励ます。昨夜もたっぷり寝たというのに、体が本調子ではない感じがする。
 これは時差ぼけだけではなく、気を使いすぎると眠くなるのかもしれないと武志は思った。運動するとお腹が減るのと同じように、気が減ると眠くなるのだろうか。いつか確かめてみる必要が有ると武志は思った。
「おかえりなさい。ちゃんと帰ってきたわね」
 頼子はいつもと変わらない表情で武志を迎えた。もう少しは、うれしそうな顔をしてくれると思っていた武志は少しがっかりしてしまう。
「無事帰ってきました。ありがとうございました」
「それでどうだったの。延長するくらいだから、かなり楽しんできたようね」
「いやぁ、別に遊んでた訳じゃないですよ。がんばって訓練を手伝ってきましたし、俺自身もかなり勉強になりました」
 頼子の嫌味の入った言葉に武志は少し慌てさせられてしまう。
「まあいいわ、ちゃんと報告書さえ出してくれたら」
 頼子はそう言いながら数センチはあるような紙の束を武志に渡す。
「えぇー、こんなに厚いんですか」
「今回は武志君一人だからね、詳しく報告してもらわないと、私達には分からないからね。それに向こうの訓練施設の事も報告してもらわないといけないから。尾行もまかれちゃったし、GPSもダメだったからね」
 武志は一瞬黙り込んでしまう。いくら一人だからとはいえ、自分に日本側の尾行が付いていたとは考えもしなかった。だが、よく考えてみれば、頼子の立場として当たり前のような気もする。
 そんなことも言われるまで気が付かない自分は、まだまだ子供のような気になってしまう。
「今回は特別に報告書の期限は二週間後で良いわよ。その代わり、二次試験はがんばるのよ」
「はい、分かりました。がんばります」
「それじゃあ、もう帰っていいわよ。まだ疲れが残っているでしょうから、ゆっくり休みなさい」
「あのー……」
 武志は言いにくので、もじもじしてしまう。しかし、これだけははっきり口に出しておかないといけない。武志は腹を据えた。
「ジョージにアメリカに残らないかと誘われました」
「まあ、そうでしょうね」
 頼子は驚かない。やはり頼子は想定していたのだ。
「予想していたなら、なぜ俺をアメリカに送り出したんですか」
 武志は思い切って聞いてみる。
「本当はアメリカには行かせたくなかったんだけど、大人の事情で仕方が無かったのよ。それに武志君なら日本に帰ってくると思っていたし」
「なぜ帰ってくると思ったんですか。正直心が揺れました。すっごく良い条件だったんですよ」
 武志の言葉に熱がこもる。
「なんでかなぁ。私にも分からないわ。ただ、武志君の求めるものはアメリカには無い様な気がしたの」
 それだけ言うと、頼子は黙ってしまった。
 頼子はいつも必要最低限のことしか話さない。これ以上頼子は話さないだろうと武志は思った。
 自分が求めるものとは何だろう。武志は急に思いつかない。
 武志は深々とお辞儀をしてから、頼子の前から去った。

 それから約一週間、武志は二次試験の面接の練習に明け暮れた。
 自分で予想問答を作り、答える練習をしたり、面接のマニュアル本を買ってきて読んだりして過ごす。
 美咲と瞳は武志がアメリカに行っている間にアルバイトを始めたらしく、暇な時に武志の家に来ては面接ごっこをしていった。
 そして面接当日迎えた。
 自分としては準備は十分したつもりで、武志はそれほど緊張していなかった。
 控え室には思ったよりも多くの人が居た。部屋の中だけで十人ほどの人が居る。面接は一日掛けて行われ集合時間も人により違う。武志が待っている間にも次々と人が呼ばれて出て行き、新しい人が入ってきて、終わった人が帰っていく。
 そして、武志の順番が来た。部屋に入ると五人の面接官が居た。四十代から五十代にかけての人で、女性が一人混ざっている。
 武志は精神力で心を落ち着け、面接官の言葉に意識を集中した。
 今まで幾人もの美しい女性に会ってきたおかげで、武志はあまり人前であがることはない。今までの経験も少しは実社会で役に立つことがあると、武志は冷めた気持ちで考えることができた。
 面接は普通の形式で、たんたんと面接官が質問してくる。志望動機、医学部で何をやりたいか、どういう医者を目指すか、金銭面で問題はないか、など質問は多かった。変わった質問では、好きな医者の漫画やドラマは何かという物もあった。
 武志は一つ々々思ったことを正直にそのまま答えた。さすがに気のことは言わなかったが、その他は、ほぼ嘘をつくことなく、詰まることなく答えることができた。
「では、こんどは山中さんのほうから何か聞きたいことはありますか」
 面接官からの質問が終わったところで、逆に質問を求められる。
 このことも武志は想定していたので、考えていたことをそのまま答える。
「来年の四月までにやっておくべきことは何がありますか」
 合格することを前提にした武志の質問に、面接官の間で苦笑が漏れた。
「山中さんは四年生ですね。まずは卒業研究をがんばって下さい。医学の勉強は四月からでも十分間に合います」
 そうして、武志の面接は終わった。合格発表は一ヶ月後である。武志は体から力が抜ける気がした。
 だが、これで全てが終わったわけではない。いまから卒業研究を急いで進めなければならない。
 サークルに入らず三年まで真面目に講義を受けてきた武志は、単位は十分足りている。しかし、卒業研究は今まで編入の勉強をしてきたせいで、周りの人間より遅れている。これからがんばって遅れを取り戻さないといけない。
 美咲や瞳と遊ぶ時間がこれからもあまり取れないなと、少し申し訳ない気になる。
 それと武志は頼子からの宿題である報告書の束を思い出し憂鬱になってしまった。

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