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一条流の戦い:第28章

 武志には重大な問題が目の前に迫っていた。就職活動である。
 まだ祖父が生きていた時には三年になったら考えれば良いと思っていた。三年になってからはS部隊との対決、アメリカ出張、中国出張と、それにあわせた修行で何かと忙しかった。
 十一月になった今、周りを見渡すと、公務員志望の連中は就職予備校に通ったりしているし、他の連中も就職活動を開始している。武志も将来の方向を考える時期が来ていた。
 頼子に頼めばS部隊へ就職する事はできるだろう。だが、それだと一条流の教えや武志の意に反する事を強要される事もあるだろう。できれば避けたい。では何をしたいかと言うと、やりたい仕事は特に無い。
 仕事ではないがやりたい事としては一条流の発展がある。今までの戦いを通じて面白くなってきた所でもある。もちろんセックスが好きだし気持ち良いというのもある。
 セックスを職業にするのは無理が有るが、祖父が死ぬ前にやっていたセックス・カウンセリングには興味がある。全ての女性の相手をする事はできないが、話を聞き感じやすくさせてあげるだけでも人を助ける事ができる気がする。一条流の技を人助けに使う事こそ祖父が望んでいた道だという気もする。
 それから就職の理由とするにはおかしいが、多くの女性に触れたいというのがある。女性の気の量を調べるには相手へ触れる必要がある。普通の大学生に女性へ触れる機会なんてあまり無い。たまにレジでおつりを受け取るとき、かすかに指が触れるくらいである。目先の目標では有るが、女性の気について理解できないと一条流の現状維持はできても発展は無いと思う。
 女性に触れる職業として最初に服屋の店員を思いついたが、ファッションに興味が無い武志にとって一生の仕事とするには無理がある。他にも医者、スポーツのインストラクターなど考えたが今から始めるのは遅い気がする。
 後は女性用の服や下着のメーカーという手も有るが、事務部門に回されてしまうと女性と接触する事など全く無いだろう。それにメーカーだからといって女性に触れる機会がどのくらいあるのか疑わしい。
 武志が考えた中で一番現実味が有るのがマッサージ師や鍼灸師だった。だが、これには国家資格が必要であり、取るためには専門学校へ三年間通わなくてはいけない。バイトしながら通えば何とかなりそうではあるが、大学まで通わせてくれた親に申し訳ない気もする。
 整体やカイロプラクティックなどには国家資格は無いようだが、やはり学校へ通うなり修行したりしないと技術が身に付かないのは同じだろう。
 そうして武志は悩みながら日々を送っていた。

 武志は十一月下旬のある日、頼子に連絡を取り進路の事を相談してみた。
 頼子は簡潔に即答した。
「医学部に編入学すればいいんじゃない。なんならどこかの大学に話を付けてあげてもいいわよ」
「編入学ですか」
「四大卒業者の三年への編入学を行ってる大学があるの。多分武志君が行ってる大学でもやってるんじゃないかな。二浪して医学部へ合格したと思えばそれほど遠回りでもないし、周りと年もそれほど変わりないし。それにお医者さんでもない人がカウンセリングといってもお客さんが来ないんじゃないの。法律的にも医者以外がやって良いものか分からないし。それに私としては、どこかへ就職されるよりも学生のままで居てくれた方が都合が良いわ」
 武志は医学部編入学の事を考えてなかった。というより知らなかった。確かに医者だとやりたい事ができる気がしていたが、今さら六年も大学へは行けないと考えていた。だが、編入学だと四年で済む。今までS部隊からもらった給料は一切手を付けずに残してある。後は奨学金をもらいアルバイトをすれば親へ頼るのは最低限で済む。両親も医学部なら納得してくれるだろう。
 それに医学の知識は一条流の発展に役立つだろう。考えれば考えるほど良いアイデアに思えてくる。
「ありがとうございます。さっそく編入学について調べてみます」
 武志は新しい目標ができた気がして、俄然やる気が湧いて来た。
「他にも相談があるんですが……」
 武志はこの日、多くの相談をして帰った。

 そして武志の進路は決まった。第一志望は医学部への学士編入学、第二志望は大手下着メーカーへの就職活動、滑り止めでマッサージ専門学校へ行く。
 編入についての情報収集と受験勉強、就職活動の開始という新しい事が武志の日課に加わった。日々のトレーニングなどの今までの習慣も続ける。夜は英語の勉強をやり、編入学試験向けの小論文の勉強などがびっちり入っている。武志がのんびりできるのは土曜日と祝日と混寝会が休みの日(美穂達の休薬日)だけになる。
 毎日が鍛錬と勉強だけでは気が滅入ってしまうので、休薬日にはサイクリングに行く。持久力強化にぴったりだし、知らない街を走るのは結構楽しい。
 そうして武志は忙しい日々を送っていた。十二月に入り美穂は年末年始に忘年会、クリスマス会、初詣、新年会と行事をたっぷりと用意していた。それらがすぎるとすぐに後期末の試験がある。
 一連の行事が終わり落ち着いたのは二月に入り大学が春休みになってからだった。
 しかし、この二ヶ月間の休みの間に武志を取り巻く環境は大きく変わってしまう。
 休みに入って間もなく真由美から連絡が入り、実家に帰る事になったと言う。詳しく話を聞くと、正月に実家へ帰った時に両親からお見合いの話を強く勧められた。真由美の実家がある地方都市では三十をすぎると嫁の貰い手が無くなる。今年で二十九になるので実家に戻るなら最後のチャンスだ。今なら知り合いに頼んで仕事も斡旋してもらえるし、お見合い相手もすぐに見つかる。と言う事だった。
 おそらく正月で話は固まっていたのだが、武志が忙しくしていたので話しづらかったのだろう。
 三月中旬で今の会社を辞め実家に帰るという事なので、急遽送別会の予定が組まれる。武志も今までの感謝を込めて丸々一日を真由美の為に空けて一緒に過ごした。
 そこに次の別れの話が来た。美穂が一年間海外赴任をすると言うのだ。三月下旬には日本を出発してしまうらしい。また急遽送別会が開かれた。
 武志は真由美と同様に丸一日を美穂の為に用意した。初めての相手であり、相談相手であり、イベントを仕切っていてくれた。年上の友人であり、姉の様な存在だった。その美穂がいなくなるのは武志にとって大きいショックだ。理由も無くいつまでも一緒にいられると思っていたのに、裏切られたような悲しい気持ちになる。
「帰ってきたら武志君の子供を産んであげるから」
 美穂は別れの時に笑って言った。
 さらに追い討ちをかけるように麗華から話があった。麗華の婚約者最有力候補が一年間の地方赴任を終えて東京に帰って来るというのだ。相手の家柄、財産、学歴、勤務先になんら問題なく、性格も金持ちのわりにはましらしい。四月に形式的なお見合いをして、すぐに婚約という事になるそうだ。それで三月いっぱいで会えなくなる。
 武志は一番好きだった麗華が居なくなることに美穂と同じ位のショックを受けた。麗華は美穂の次に一番多く会っている。何度も一緒に旅行も行った。二人の時には恋人気分も味わっていた。いつかこの日が来るのは分かっていたが、実際来てしまうと、信じられないし、うろたえてしまう。
 別に東京から居なくなる訳ではないが、もう今までの様に会う事はできないだろうと、送別会が開かれた。
 武志は麗華とも一日一緒に過ごした。そして最後の恋人気分を味わう。武志は麗華も辛いという事が分かっていた。今から好きでもない男と付き合い、そして結婚して子供を産まなければいけないのだ。麗華は宿命として受け止めているが武志は可愛そうに思えて仕方が無い。せめて楽しい思い出を残して欲しいと最後の一日を過ごした。
 そして最後に和子からも話があった。これからは会う回数を四週に一回にして欲しいという事だった。
 今度の四月から子供が中学へ通う。これを機会に自分は勤めに出たい。いつまでも夫の遺産だけで暮らしていく事もできない。そうなると日曜日には溜った家事をやらないといけないので、今までみたいに自由にできる時間が減ってしまう。という事だった。
 これも武志は従うしかない。嫌だと言っても武志に和子親子を養うお金が有る訳でもない。
 武志は一月までのハーレムな生活が一気に崩れ去り精神的に落ち込んでしまった。それも武志のホームグラウンドというか心の拠り所だった美穂と麗華が居なくなる事が大きい。
 セックスに関しては頼子に頼めばいくらでも相手を用意してくれるだろう。だが、心の問題は自分で解決するしかない。

 三月下旬のある日、武志は毎朝の日課のジョギング中、折り返し地点の公園で大きな犬に引きずられている女の子を見た。犬は何度か見かけた事が有るが、いつもは高校生くらいの男が一緒だったはずだ。
 武志が息を整えながら見ていると、大きな犬が他の犬を見つけて飛び出してしまう。女の子はその勢いに思わずリードを離してしまい、大きな犬は駆け出していった。
(まずい)
 武志は躊躇する事無く走ると、逃げ出した犬の前にしゃがみ大きく手を広げた。
「よーし、来いっ」
 犬は遊び相手が見つかったと武志へ向きを変え走ってくる。女の子相手では遊び足りなかったのだろう。
 犬がどーんとぶつかる。武志は後ろに倒れて勢いを殺しながら、犬の首に手を回し逃げないように抑える。
 大型犬だけあって衝撃はかなり強かった。子供なら弾き飛ばされてしまうだろう。
「よーし、よーし、よーし、よーし」
 話しかけながら犬の体を撫でてやり、犬が顔を舐めるのに任せる。
 犬が落ち着いてきたところでリードを持ち、犬と一緒に走って彼女の所へ戻った。
「ちょっと、犬と走ってきて良いですか」
 武志が聞くと、彼女はとっさの事に頭がうまく回らない。
「えっ、あ、は、はい」
 思わず承諾してしまう。
 武志は彼女の目が届く範囲を犬と一緒に走った。
 十分以上走り武志も息が苦しくなって来たところで、リードを引き彼女の所に戻った。犬も満足気にハァハァと息をしている。
 急な事なので女の子の事をよく見ていなかったが、あらためて見るとお人形みたいなきれいな子だった。身長は160cm位でロングの黒髪を後ろでポニーテールにして垂らしている。顔は小さく、色は白い。二重のはっきりした目と小さい口が品の良さを感じさせる。お化粧はしていないが十分可愛い。そして上下白のトレーニングウェアが妙に似合っている。
 こんな事でもなければ口を聞く事も無かっただろうと、武志は少しうれしくなった。犬に突き飛ばされた事など全然問題ではなかった。
「とりあえず、犬もこれで満足したんじゃないかな」
 武志は、息を弾ませながら女の子に言った。
「す、すみません。え、えーっと、ありがとうございます。あのー、クリーニング代出します」
 女の子はまだ少し動転している口調で言った。
「いいよ、いいよ、そんなの。こんなの土が付いただけだし洗濯すれば問題ないよ。どっちみち汗で濡れてるから洗濯しなきゃいけなかったし。それより、この犬、いつもは男の子が一緒だったと思うんだけど」
「はい、いつもは弟が散歩させるんですが、昨日から風邪で寝てて。昨日は散歩に連れて行かなかったから、今朝から吠えちゃって、仕方なく私が連れてきたんです」
「そっかー、それなら誰か知り合いの男の人に頼んだ方が良かったね。これくらいの犬だと子供にじゃれて飛び掛っただけで子供は弾き飛ばされるから危ないよ。それにリードは絶対に離しちゃダメだよ」
「はい、すみません」
 女の子はしょぼんとする。
「それじゃあ気をつけてね」
 武志はそれだけ言うと立ち去ろうとした。
「あの、ちょっと待ってください。せめてお名前でも」
 女の子が慌てて聞いてきた。
 こんな時にとっさに相手の名前を聞けるとは親のしつけが良いに違いないと武志は思った。
「別に気にしなくても良いから。それじゃあ」
 そう言って武志は走り出した。ナンパなどした事の無い武志はここで携帯の番号交換や、メールアドレスの交換など思いつかなかった。それにたかがこんな事で人に恩を着せるような気も無かった。むしろ年下の可愛い子と話せて得した気分だった。大学でサークルへ入っていない武志は、ここ何年も年下の女の子と話す機会はほとんど無かったのだ。
 この一件は武志の中で、たまにあるラッキーなこととして片付けられた。
 だが、翌朝武志が同じ時間に公園へ行くと、彼女が一人で待っていた。
 お互いに気が付くと、二人は近づいた。
「良かったです。ここで待ってたらまた会えるかと思って。どうしてもお礼が言いたくて」
 女の子がうれしそうに話す。
「そんな気にする事無いのに」
 武志としては昨日の事はうれしかったエピソードとして既に終わった話だった。また女の子に会えてうれしいが、再度お礼を言われると気恥ずかしく感じてしまう。
「何かお礼の品でも持って来ようかと思ったんですが、ジョギング中に物を渡すのは良くないなと思って。それで今度日を改めてお会いしたいんですが、どうですか」
「いや、ほんとにたいした事してないから、昨日の汚れも洗濯したらきれいになったし、怪我もしてないし……」
 お礼などと言われて、武志は照れてしまう。
「あのー、ひょっとしてご迷惑でしょうか……」
「いや、そんな、迷惑だなんて、うれしい位だけど、たかがあんな事でお礼なんかされたら、俺の方が困っちゃうよ」
「それじゃあ、せめてアドレスの交換をしてもらえますか」
 武志はそのくらいならとOKした。ウエストポーチから携帯を取り出し、自分のメールアドレスを表示させて彼女へ見せる。アドレス交換などめったにしない武志は通信のやり方を忘れていた。
 彼女が表示を見ながら素早く自分の携帯を操作すると、武志の携帯からメールの着信音が鳴った。若い子は携帯の操作が早いと武志は感心する。
「それが私のアドレスですから。では、後でメールしますねー」
 そう言うと女の子はお辞儀をして帰っていった。

 その日の午前中にさっそく女の子からメールが届いた。メールには彼女の自己紹介が書いてあった。
 名前は美咲。今月女子高を卒業したばかりの十八歳で四月からは女子大に通う。四歳上の姉と二歳下の弟がいる。
 意外と家も近く、徒歩二十分くらいの距離だという事が分かる。それに高校、大学は武志の所よりかなり難しい所で、とても頭が良い。高校などは都内でトップを争う難しさだ。
 それからも毎日一回美咲からのメールが届いた。趣味の話、好きな本、漫画、音楽と話す事はたくさんあった。それに美咲の入る学科は社会科学で、武志が通っている心理学とも近く、講義の話をする事も有った。
 四月上旬の春休みも残り少なくなった日に二人は外で会う事になった。美咲がどうしてもお礼がしたいというのを武志が断りきれなかったのだ。
 待ち合わせ場所に来た美咲を見て武志は驚いた。会うのは三回目だが、前の二回はトレーニングウェアを着たちょっと可愛い女の子という感じだった。だが、きちんとおしゃれをした美咲は完全なお嬢様系美少女だった。
 長い黒髪を背中に垂らし、顔にはほんの少しだけ目立たない程度にお化粧をしている。唇はプルプルしてみずみずしい感じのピンクの口紅をしている。ちょっと化粧をしているだけで前とは全然雰囲気が違う。
 白のふわふわしたワンピースに淡いパステルカラーのジャケットを羽織っている。胸の大きさは控えめだが、袖や裾からのぞく手脚はスタイルの良さを思わせる。
 だが目を引くのはお尻の大きさだ。横から見ると華奢な体に似合わずむっちりとした豊かなお尻をしている。上半身が細いだけにお尻の大きさが服の上からでも際立っている。
 そして手には大き目のバスケットを持っていた。
 自分の冴えない男子大学生という服と比べると釣り合っていない。その上、二人並んでたつと20センチ程の身長差が有り、武志のあごの高さに美咲の頭の上が来る。トレーニング量を増やし筋肉が増えて来ている武志と、スリムな美咲はまさに美女と野獣に見える。武志は美咲に申し訳なく思った。普段から服装に気を付けていれば良かったと後悔してしまう。
「それじゃあ、行きましょう」
 美咲は気にしていない様子で歩き出した。武志はさりげなく車道側にまわりバスケットを持ってやる。武志は女性と付き合ったことは無いが、美穂や麗華と出かける度に厳しく言われていたので、自然と振舞う事ができる。
 二人が向かったのは近くの遊園地だった。そこは武志にとって思い出の多い所だ。小学生の頃は両親や祖父に連れられて何度も遊びに来た。中学に入ってからは来たことが無かったので、中に入るのは約十年ぶりになる。
 美咲は高校入学に合わせて今住んでいる所へ引っ越して来たので、まだ入った事がない。自宅から歩いていける距離にありながら前を通った事しかない。高校は女子高でカレもいなかったので、女だけで入る気にならず今まで入ってみたいとは思いながら果たせていなかった。
 春休み中だが平日のせいか、中はけっこうすいている。これならゆっくり回れると武志は思った。
 美咲は話してみると意外としゃべる子だった。最初は静かな印象を受けたが、どうやら人見知りする性格のようだ。それに普段知らない男性と話をする機会が無いので上がってしまっていたのだ。
 美咲によると武志は学校の優しい先生みたいに話しやすいタイプらしい。
 武志は褒められているのかどうか良く分からなかったが、とりあえず喜んでおいた。
 幾つかのアトラクションを周り、昼になると、美咲はテーブルを見つけお弁当を広げた。
「これが、最初に会った時のお礼です。一人で作ったんですよ」
 お絞りを渡しながら美咲が言った。
 おにぎりにサンドイッチにいろいろな種類のおかずがあった。ハンバーグやポテトフライなどは明らかに冷凍食品だが、これだけのお弁当を用意するのは時間が掛かっただろう。味も悪くない。
「美味しいよ。ありがとう。こんなにたくさん作るの大変だったんじゃないの」
「えへ、ほんとはちょっとだけ母に手伝ってもらったんです」
「それでもたいしたもんだよ。いつも料理をしてるの」
「たまに母がいない時とかに姉と交代で作りますよ。でもどちらかというとお菓子を作るほうが多いです」
「そっかー、俺、甘い物も好きだから、今度食べさせてね」
 言ってから武志は催促したみたいで失敗したと思った。武志の中では、美咲と会うのは今日で終わりとなっていた。お礼が済んだら、もう会う口実が無い。良い思い出としてしまっておくつもりだった。
「いいですよー、レアチーズケーキなんか結構自身があるんですよ」
 武志の思いも知らずに美咲は無邪気に答える。
 お弁当は結構な量があったが、武志はいつもの旺盛な食欲ですべて平らげる。
 美咲は多めに作ってきたのに全て無くなったので驚いた。武志は女の子の三人分から四人分は食べている。美咲の弟は高校の部活が文化系のせいか、人並みにしか食べない。こんなにたくさん食べる人を見て新鮮に感じた。
 昼食の後は軽めの乗り物になり、最後に定番の観覧車に乗った。
 時刻は夕方で、窓の外には夕焼け色に染まる町並みが広がり、ビルは夕日をキラキラと反射させている。
「またメールしても良いですか」
 美咲が遠慮がちに聞く。
「俺は全然かまわないけど、美咲ちゃんこそいいの」
「私が行くのは女子大で男の人はいないし、付き合ってる男の人も居ませんから」
 観覧車から降りると武志は美咲を家まで送っていった。
「今日はありがとうございました。お礼だなんて言っておきながら私ばかり楽しんだみたいで」
「お弁当は美味しかったし、俺も久しぶりで懐かしかったし楽しかったよ」
「それじゃあ」
 美咲は別れがたいみたいだが、いつまでも家の前で話をしているのも近所の目がある。美咲は手を振ると家の中へ入っていった。

 武志は自分の家へ向かい歩きながら考えていた。
 美咲は自分に好意を持ってくれている様だが、このまま付き合っても良いのか。体だけとはいえ和子との関係は切れていない。それに訓練の名目でS部隊とも寝ている。いつかは美咲に本当の事を話さないといけない日が来る。その前に美咲を傷付けない様に別れを告げた方が良いのかもしれない。
 だが、美咲はとてもいい子だ。可愛いし、スタイルも武志好みだ。今日一日一緒にいて、よく気が付くし、礼儀もあるし、話も合う事が分かった。家も割かし裕福なようで、けっこう大きな所に住んでいる。こんないい子にはもう二度と出会えないかもしれない。そう思うと、簡単に美咲との関係を絶つのはもったいない気がする。ダメだとは思いながらも美咲に引かれている自分に武志は気付いていた。

 その後も美咲からは毎日メールが届いた。大学が始まってからは大学の話題も出てくる。美咲に強く誘われ何度かデートも重ねた。武志がデートだと思っているだけで、美咲はやさしいお兄さんとお出かけを楽しんでいるだけもしれない。だが、武志にしてみれば紛れも無くデートだった。今まで美穂や麗華と出掛ける事はあっても、それはデートではなくお連れの人や荷物持ちという感じであった。女性と普通に付き合ったことの無い武志にとって美咲との外出は楽しいデートだった。
 美咲は異性のいなかった女子高時代の埋め合わせをするかの様に武志との外出を楽しんでいる。行き先は水族館や映画など中学生や高校生の行く所が多かったが、そういう経験の無い美咲は十分楽しんでいた。
 これ以上はっきりしないのは良くないと考え、ある日武志は和子に美咲の事を話した。
「……という事で、これ以上は彼女を騙しているようで気がとがめるんです」
 武志は正直に全ての事を和子に話した。
 和子はしばらく考えてから言った。
「いつかはこういう日が来るとは分かってたけど、実際に来ちゃうと悲しいわね。私が武志君の幸せを邪魔しちゃいけないものね。悲しいけど武志君に会うのは今日で最後ね。私も再婚相手を見付けようかしら」
 和子は悲しい目をしている。武志も幾度と無く体を合わせた和子と別れるのは悲しい。母に近いイメージを持っていて、混寝会では最年長として時に先走る美穂を抑えてくれて、大黒柱みたいだった。
 最後の時、武志は全力を出し切って和子を狂わせた。自分との事は良い思い出にして、いい人を探して欲しいと武志は願った。
 これで混寝会は完全に解散する事となった。

 四月下旬の土曜日、映画を見た後で美咲が武志の部屋へ行ってみたいと言い出した。時間は三時すぎでそのまま家に帰るにはまだ早い。武志は美咲の意図を測りかねた。とりあえず家に電話したら母親が居たので良しとした。家族が誰もいない家へ女の子を連れ込む勇気が武志には無い。
 武志の家は明治時代から先祖が住んでいた所へ十年前に新しく立て替えた物だ。3LDKの家と車一台分の駐車場と庭とは呼べないほどの小さな花壇がある。二十三区内に一戸建ての家があるだけ恵まれている方だろう。
 一階にはリビングや祖父が生きていた頃使っていた和室があり、二階には武志の部屋と両親の部屋がある。まだ築十年なのでそれほど古く感じない。
 家に父親はおらず、母親の陽子しかいなかった。リビングで陽子と美咲をそれぞれ紹介して、三人でお茶を飲む。
 美咲は躾けの良さを出し、陽子と如才なく話をしている。こういう時男は何を話して良いか分からず黙って二人の話を聞いているしかない。
 美咲は自己紹介と武志と出会ったいきさつなんかを話している。
 お茶が終わった所で美咲が部屋を見たいというので二人で移動する。
 武志の部屋はきれいに片付けられていた。以前彩音が突然訪ねてきて以来、万が一に備えて武志は常にきれいにしていた。エッチな物は段ボール箱に封印して押入れの奥に仕舞ってある。
 ベッド、テーブル、机、パソコン、AV機器、本棚の他は何も無い。ダンベルが転がっている位だ。
 美咲は散らかった部屋を期待していたのか少しがっかりしている。それで武志の隙を見てベッドの下を探そうとしている。エッチな物が隠してあると思っているのだろう。別に何も隠していないので武志は気付かない振りをする。
 二人はテーブルの両側に向かい合って座った。
「何でこんなにきれいなんですか」
 美咲が意外そうに言う。
「別に理由は無いけど、きれいな方が便利だろ」
「えー、そんな事言って、女の人をいっぱい連れ込んでるんじゃないんですか」
「女の人を連れてきたのは美咲ちゃんが初めてだよ。俺、今まで女の人と付き合った事ないし」
「えーっ、それこそ信じられないですよ」
「俺のじいさんが気の師匠でさ、小学校の時からずっと修行させられてたんだ。それで彼女どころじゃなくて。最初に美咲ちゃんに会ったのもジョギングの途中だっただろ」
「気って、あの、えいやーとかって人が飛ぶ、あの気功の気ですか」
「人は飛ばせないけど、あの気功だよ」
「気功って何をやるんですか」
「別に何をやるって訳じゃなくて、気をうまく使うことで、集中力を高めたり、精神を落ち着けたり、体を健康にしたりするんだ」
 なるべく嘘にならないように武志は考えながら話す。
「そうなんですか。それでおじいさんは」
「おととし死んじゃったんだ。でも修行の方は面白くなってきたんで続けてるけどね」
「何て流派なんですか。よく何とか流とか、何とか派とか言うじゃないですか」
 事情を知らない美咲はくったくなく聞いてくる。
「ごめん、事情があって今は話せないんだ。いつか話すから」
 武志の秘密めいた話し方に、急に場は盛り下がり、二人して黙り込んでしまう。
 長い沈黙の後、美咲は突然立ち上がり武志に近づいた。両手を武志の顔に伸ばして挟むと、自分の顔を近づける。
 勢いを付けすぎていたので唇と唇がぶつかり痛みを感じる。
「私のファーストキスです。責任とって話してください」
 それでも武志は黙っていた。
「武志さん、おかしいです。何度か一緒にデートしても手も握らないし、自分から誘ってくれないし。私はこれでもよくナンパされるんですよ。少しは可愛いかなって自信があったのに武志さんは何もしてこないし。それに今だって何か隠してるし」
 美咲が涙声になりながら話を続ける。
「最初会った時から親切でやさしい人だなって思ってたのに……。恩着せがましい所が無くて良いなって思ってたのに……。背も高くてがっしりした体をしてるのに、顔はごつくなくて、結構良いなって思ってたのに……。話も合うから結構良いなって思ってたのに……。私は人見知りするたちで、男の人と話すのが苦手なのに、武志さんなら話しやすくて一緒にいて楽しくて良いなって思ってたのに……。今日も外見に似合わず意外ときれい好きで良いなって思ったのに……」
 美咲はえぐえぐと泣き始めてしまった。
 武志はティッシュを取ると美咲の涙を拭いてやる。そして泣き止むまで優しく抱き、頭を撫でた。
 美咲が落ち着いた所で武志は言った。
「分かった。全部話すよ。その前に……」
 武志は美咲のあごを軽く持ち上げ自分の方を向かせると優しくキスした。初めは唇を軽く触れ合わせるだけ。それから唇で唇を挟んで軽くしごく。そして舌で唇をゆっくりなぞりながら気を送り込む。
 美咲はさっき初めてのキスをしたばかりなのに、武志のやさしいがハイレベルのキスを受けて頭に血が昇ってきた。自然と口がゆるみ、開いてしまう。
 武志はすかさず舌を差し入れる。そして口で口をぴったりふさぐ。
 美咲の舌は口の奥で縮こまっている。武志は挨拶代わりに舌でツンツンと付く。すると美咲の舌が遠慮がちに伸びてくる。武志は舌先から気を最大量で送りながら美咲の舌と絡める。
「ん……、んふ……、んふ……」
 美咲の口からあえぎ声が漏れ始める。
 美咲はだんだん意識が濁ってくるのを感じていた。頭の中に白いもやがかかり、キスの事しか考えられなくなっていく。
 武志の舌をただ無心に吸ってしまう。武志が唾液を流し込んでくると、口の中全体に広げて味わい、もったいないと思いながらも飲み込んでいく。武志の唾液がとてつもなく甘く美味しいものに感じる。もっと欲しいとせがむように武志の舌を吸う。
 美咲は目元から頬にかけてを赤く染めながらキスに没頭していた。性的にかなり興奮しているのが自分でも分かる。いつまでも武志の舌を吸っていたい。
 美咲は十八歳相応の性知識を持っている。雑誌には情報が溢れているし、友達からも色々な話を聞く。だが、キスだけで気が遠くなるなど聞いた事が無い。せいぜいが気持ち良いとか、うっとりする位である。
 それなのに自分は今、武志の唾液を飲み込む事しか頭に無い。昨日までの自分なら考えられない事だ。美咲は自分の理性が精神と切り離されていく気がした。
 武志はもう十分だと思い、口を外す。二人の口の間に唾液の糸が伸び、ぷつんと切れる。美咲は唾液が飲み足りないと舌を出して続きをせがむ。
 武志が体を離し元の位置に戻る。
「何か冷たい物でも持ってくるよ」
 武志はそう言うと部屋を出て行った。
 一人になり美咲にだんだん理性が戻って来た。出していた舌を引っ込め口を閉じる。
 凄いキスだった。途中から訳が分からなくなってしまった。キスがあれほど気持ち良いとは思ってもいなかった。ふと、自分の顔の筋肉が緩んでいる事に気が付く。慌てて顔を引き締め、バッグから鏡を出し覗く。リップは剥げ落ち顔が真っ赤に上気して、額には汗をかいている。
 まだ戻ってこないでと祈りつつ美咲は大急ぎでお化粧を直す。
 武志はそんな美咲の事情が分かっていたのか、十分ほどしてから戻って来た。
「ごめん、冷たい物が無くて、アイスコーヒーを造るのに時間がかかっちゃった」
 美咲は興奮したせいか喉が渇いていた。アイスコーヒーを半分ほど一気に飲んだ。一息ついて前を見ると武志が自分を見ている。
 さっきまで、あの人とキスをして唾液を喜んで飲んでたんだ。そう思うとまた顔が真っ赤になってしまい、思わず下を向く。体の奥がじんわりと熱くなってくる。
「今から話す話は絶対に秘密にしてくれる。俺の両親以外は誰も知らない話なんだ」
 美咲はうんうんと大きくうなずいた。
「さっきのキスで分かったと思うけど、俺は普通の人とはちょっと違うんだ……」
 武志は一条流の話から始まって、混寝会の事、秘密の仕事の事まで話した。さすがにS部隊の事は政府の秘密組織と細かい部分は話さなかったが、何も隠さず全ての事を打ち明けた。
 最初下を向いていた美咲は、武志の話が続くにつれだんだん顔を上げ、最後の方はぽかんとした顔で話を聞いていた。
 始めの方はそれでキスがうまいのかと納得しながら話を聞いていた。混寝会の部分になると、胸が激しく痛んだ。そして最後の方になると、驚くというかあきれてしまった。この人は何を言っているのだろうか。政府の仕事と言われて、そうですかと信じられるはずが無い。だが、武志は凄く真剣な顔をしている。嘘を付いている顔には見えない。
 話し終えた武志は黙って美咲の顔を見ている。
 美咲も武志の顔を見るが何を話していいか分からない。十八歳の女の子の頭では処理しきれない。
「しばらく考えさせてください」
 美咲は何とかそれだけ言った。そうして帰るために立ち上がった。
「送っていくよ」
「まだ、明るいから大丈夫」
 これ以上二人でいても何を話していいか分からない。一緒にいられると逆に辛い。
 武志が玄関まで送ると、美咲はお辞儀をしてからとぼとぼと帰っていった。
 美咲の姿が見えなくなるまで見送っていた武志が部屋に帰ろうとすると陽子が話しかけてきた。
「美咲ちゃんの元気が無かったけど、どうしたの」
「一条流の話をしたんだ」
 武志はそれだけ言うと二階へ上がっていった。陽子もそれ以上は何も聞かなかった。

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