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丹波学園物語:第1章

 綾乃は一日の授業終了のチャイムの音を憂鬱と興奮が入り混じった気持ちで聞いていた。
 前髪を眉の辺りで切り揃え、後髪は背中の中ほどに垂らしている。前髪で少し隠れた眉は手入れをしていないので、やや濃い目だが、元々の形は良いので整えれば、とても美しくなるだろう。
 くっきりとした二重で大きくアーモンド型の目には芯の強さがうかがえる。瞳は濁りのない澄んだ色をしている。それに睫毛が長い。これだけ長ければ付け睫毛はいらないだろう。
 鼻筋はすっと通り、高すぎず、低すぎない絶妙な高さだ。口は小さく、唇は何もつけていないのに赤くプルプルとみずみずしい。
 日本人形を現代風にアレンジしたような美しすぎる顔だ。別の言い方をすると、昭和の香りがする超絶美少女。これだけ美しい少女は、めったに見ることができない。芸能界に入っていないことが不思議なほどだ。
 また高校の制服が見事に似合っている。
 この学校の制服は一流企業のOLのようなフェミニンなデザインをしている。ボレロに近い丈の短い腰までのジャケットに、ベスト。それに膝上10cmくらいで、裾が広がりボックスプリーツが入ったスカート。
 やや制服に着られてる感があるが、少女の美しさを少しも損なわず、微妙にアンバランスな感じが、少女特有の危うい雰囲気をかもし出している。
 その美少女の周りにはぽっかりスペースが空いている。他のクラスメート達は部活動へ向かったり、友達同士で放課後に何をやるかの相談をしたりしている。綾乃に話しかける者は誰もいない。
 高校に入学して一週間が経とうとしているが、まだ綾乃には友達といえる人間が居なかった。部活動にでも入れば友達でもできそうなものだが、生来の人見知りな性格がためらわせていた。

 綾乃も小学校の低学年の頃までは、普通の女の子だった。父親は普通の会社員で、母は専業主婦。母は綾乃に手がかからなくなると昼間のパートへ出るようになった。絵に描いたような普通の中流家庭だ。
 普通と違っていたのは、綾乃の容姿が並外れて美しいことだった。両親とも外見はどこにでも居るような、ごく普通の人間だったが、その二人から生まれた子供は両親の良い所だけを集めて、さらに磨きをかけたような美しさだった。
 幼稚園に居た頃は、近所で評判の可愛い子というレベルだったが、大きくなるにつれ、その評判は可愛い子から綺麗な子へと変わっていった。高学年になる頃には、整いすぎて他人へ劣等感を与える顔へと成長していた。
 最初居た友達も、引け目を感じたのか段々離れていった。男子には『人形』や『外人』と冷やかされ、女子からは引き立て役になりたくないとか、男子の人気を独り占めしているとか言われてしまう。
 しかも、担任が男の先生の時は、どうしても先生の気を引いてしまい、クラスメートからは贔屓されているという目で見られてしまう。
 普通の両親から大切に育てられ、真面目で大人しい性格の綾乃は、そんな周りの目を跳ね除けることができずに、だんだん殻に閉じこもるようになってしまった。
 子供ながらに周りの人間から冷やかし、羨望、ねたみなどの視線で傷つけられたのだから、仕方が無かった。元来の性格が良いためか、いじめられなかったのが不幸中の幸いだった。というより、あまりに綺麗すぎて、クラスメートは子供ながらに畏怖心を持ち、イジメをする気を起こさなかった。
 その証拠に遠足などの班分けでは、どこが綾乃を入れるかで、微妙な駆け引きが繰り広げられた。
 男子としてはぜひ綾乃に来て欲しいが、あからさまに班へ入れると、他の男子からはからかわれ、女子からは反発を食らってしまう。
 女子としては、綾乃が来て自分の影が薄くなると困るが、来ると男子のメンバー選択に俄然有利になる。かといって綾乃をすぐに入れると、男子目当てだと回りに言われてしまう。
 綾乃以外のクラス全員が同じ事を考えているのだから、大変難しい。綾乃が居るクラスは班決めに時間がかかるのが常だった。
 そして、綾乃は神様みたいな別格扱いを受け、親しい友人が居ないまま、勉強や読書ばかりして時間を潰すようになった
 そんな生活は綾乃が中学に入っても続いた。同じ小学校からの同級生は小学校と同じ態度で接してくるし、他の小学校からの人間は、まるで芸能人でも見るように見物に来た。
 さらに酷い事に、男子や男性教師の視線にいやらしさを感じる事が多くなってきた。世間一般の性知識を持っている綾乃は、その視線の意味を十分すぎるくらい理解した。
 中学校ともなると勇気を出して告白してくる男子がかなり居たが、人見知りが強くなっていた綾乃が付き合うことは無かった。
 綾乃が高校受験に当たり、自分を知った者が誰も居ない所へ行きたいと思ったのも当然と言えるだろう。
 そして綾乃が見つけたのが、私立丹波学園だった。
 創立二年目で、綾乃が入学すれば三期生になる。全寮制の女子校で中等部と高等部がある。一期生が高校を卒業するのに合わせて女子大も設立される予定である。
 他にも綾乃の希望に一致する事が多い。
 教職員は全員女性のみ。これで少なくとも男性のいやらしい視線を感じることはなくなる。
 成績により、授業料、寮費が免除され、奨学金まで支給される。これなら、がんばれば両親への負担が減らせる。普通のサラリーマンとパート主婦である両親に無理をさせることはできない。
 そして、綾乃が一番気に入ったのはネットでの評判だった。制服が可愛い上に、全国から美人が多数集まっているという。入学は内申と面接重視で、なぜか顔やスタイルが良い者が優先されるという噂まであった。校風は本当に自由で、生徒の自主性に任されているらしい。
 授業は真面目に受けていたし、成績も悪くない。コンプレックスの原因だが顔も悪くないと思う。これなら受かるかもしれない。もし入れて、本当に美人が多いなら自分の顔も目立たなくなるだろうと考えた。
 娘が手元を去るのを嫌がる両親を何とか説得し、丹波学園を第一志望にした。綾乃が受験する年が三期目の試験なので、まだデータが少なく進学塾でも偏差値などがはっきりしない。ただ毎年受験者数が増えているので偏差値はかなり高くなるのではないかということだった。
 綾乃は地元の公立高校を第二志望にして、ひたすら勉強した。そして、その甲斐あって綾乃は無事合格して見知らぬ土地で新しい生活を始めたのだ。

 入寮式、入学式を終えた綾乃は、ここでも自分の居場所を見つけることができなかった。たしかに全国から美少女が集まるという噂が流れるだけあって、周りには可愛い子が多かった。中には芸能界にデビューできるのではないかと思う子もいた。しかし、その中でも綾乃の美しさは群を抜いていた。
 なまじ可愛い子が多いだけに、中には綾乃へあからさまなライバル心をあらわにする子もいた。
 綾乃の美しさはここでも周りを一歩引かせるだけの雰囲気を持っていた。
 だが、今までとは大きく違っていることがあった。教職員に美しい女性が多いのだ。中には普通の人も居たが、高校生が将来こうなりたいと思うような美女がごろごろいた。教員だけではなく、寮の責任者や、売店の人もかなりの割合で普段見かけないような美しさだった。しかも美しいだけではなく、みな細くて、胸も大きくスタイルが素晴らしい。
 綾乃はそういった美女の近くに居るときには、周りの視線やコンプレックスを感じないで、ほっとすることができた。
 そして、自分がかなりきれいなだけに普通の美人には驚かない綾乃ですら驚く人が居た。
 一人目は生徒会長の三原詩織。入学式で歓迎の挨拶を述べる彼女を見て、綾乃はショックを受けた。
 歩く姿は颯爽としていて、品がある。壇上で背筋を伸ばし、堂々としゃべる姿は凛として、高三にして風格があった。原稿を見ないで、落ち着いた良く通る声で話し、厳しい中にも優しさを感じる。
 綾乃の席からは細かい所は分からないが、かなり綺麗なのは分かるし、スタイルもかなり良い。
 黒くて柔らかそうな髪を背中に垂らしている。大きい目は知性と強い意志を感じさせる。高くて形の良い鼻に、大きい口も似合っている。どちらかというと派手な顔の作りなのに知的な感じがする。
 綾乃は一目見て自分の理想が現実に存在している感動を覚えた。人見知りが激しくて内気な自分と違って、強さを感じる詩織に憧れを抱いた。もっと近くで見たい、話してみたいという欲求が湧き上がる。
 いつまでも詩織の話を聞き、姿を眺めていたかったのに、挨拶は数分で終わり、詩織は壇上から去ってしまう。歩く姿に綾乃が見とれていると、詩織が一瞬自分の方を向き、目が合ったような気がした。冷静に考えたら、単なる新入生である自分を見ることなどありえないのだが、綾乃は一目惚れしてしまっていた。
 綾乃がぼーっとしている間にも式は粛々と進行していく。次に綾乃が驚いたのは一年生を担当する教師の紹介が行われているときだった。
 教師も全員女性だったが、中に飛びぬけて美しい女性が一人居た。教師達は普通の学校ではありえないほど若くて美しい人が多かったが、その人は、その中でも一人だけ浮き出ていた。その人の回りだけ空気が違って見えるほどだ。
 教師の中で一番背が高くて、それだけでも目立つのに、それに遠目で分かるほど手脚が細くて長い。そして細い体に不釣合いなほど胸が突き出ている。そのスタイルの良さに綾乃は思わず見とれてしまう。年は二十代後半に見えるが良く分からない。顔は少し彫りが深く、スタイルとともに日本人離れしている。
 紹介の話を聞いていなかったので、名前や教科は分からなかったが、授業でまた会えると思うと、綾乃は嬉しくなってきた。あれほどスタイルが良い人を現実の世界で見たことが無い。テレビや雑誌の世界の中にしかいないと思っていた。それが授業の度に、もっと近くで見られると思うとワクワクしてくる。
 自分に同性愛の志向が有るとは考えたことも無かったが、詩織とあの教師を見て、考えさせられてしまう。今まで女性を見て興奮することなど無かったが、あの二人を見ていると心がざわめいてくる。架空の世界で上級生のお姉さまに熱を上げる女生徒の話が、綾乃の中で現実味を帯びてきた。

 入学式の興奮が冷めると綾乃に現実の退屈さと孤独がやってきた。
 丹波学園は自由な校風で制約が少なかった。逆に言うと自分から動かないと何も始まらない。部活動も自由参加なので、どこかに入らなければいけないこともない。綾乃がどうしようかと悩んでいるうちに一週間が過ぎた。
 しかし、その間にいくつかの収穫があった。まず生徒会長の詩織の詳しい情報が分かった。いち早く部活に入ったクラスメートがおしゃべりしているのを横で聞いたのだ。詩織のことは他の一年生も興味を持ったようで、先輩に聞いた事を自慢げに話していた。
 詩織は一年生の頃から成績は常にトップグループに属していて、一年のときから今までずっと生徒会長をしている。部活には入っていないが個人的に中国文化研究会というのを作り、そこで中国人の先生から色々教わっているらしい。その会は誰が入会を申し込んでも断られて、活動は先生と詩織と二年生一人の合計三人で細々と行われている。
 それを聞いて綾乃は、これだと思った。ダメ元で入会を申し込む。そこに入れば、詩織と知り合いになれるし、話をすることもできる。他の部活に入るかは、それから決めようと考えた。
 そして、入学式で見た美人教師の事も分かった。王《ワン》香露《シャンルー》先生。中国人で漢文を担当。中国語、日本語、英語が話せて、英語の補助教員も勤める。他に校内で中国語教室も開いている。
 校内に中国人の先生が何人も居るとは思えないので、中国文化研究会の先生とは王先生のことだろうと綾乃は思った。もしそうなら、綾乃が驚いた二人の美女が、二人とも中国文化研究会に居ることになる。綾乃は、どうしても会に入りたくて仕方がなくなった。
 王先生を初めて授業で見たときは衝撃だった。近くで見ると入学式で遠めに見たのとは比較にならない美しさだった。
 まず手脚の長さが半端ではない。腰の位置が高い。身長の半分以上が脚だ。膝上のスカートから見える脚は白くて細くて、綾乃が見てもほれぼれする。それに顔が小さい、八頭身、いや、九頭身近くあるのではないかと思うほどだ。
 胸も大きい。正面から見ても細い体に不釣合いなほど大きいと思ったが、横から見るとさらに大きいことが分かる。ブラウスの布が突っ張るほど持ち上げられ、ブラのレース模様が浮かんでしまっている。巨乳と言えるだろう。
 他にも身長は170cm位あり、腰は見事に引き締まっているし、お尻は豊かに張り出している。首も指も細くて長いし、色も白い。三十近い年でこのスタイルは信じられない。現役でモデルでもグラビアアイドルでも何でもできそうだ。
 これだけスタイルが良いのに、顔がとてつもなく美しい。細くて整った眉、一重だが切れ長の瞳、鼻筋が通った高い鼻、少し薄いが大きくて形の良い唇、細いあご。彫りの深い各パーツがバランスよく顔に収まっていて、文句のつけようがない。しかも美しいのに冷たさや、刺々しさを感じない。それは優しい目をしているからだろう。
 最初の授業のときに、あまりの美しさにクラス全員の目が釘付けになり、呆然としてしまったほどだ。
 綾乃は自分の顔について屈折した自信があったが、はじめて心から負けたと思った。だが全く悔しくなかった。圧倒的な差を見せられて、負けてもすがすがしさを感じるくらいだ。
 それに綾乃はスタイルについては全く自信が無かった。身長は156cmで普通だ。太っているわけではないが、胸は小さく、ストンとした子供体型。スタイルは比べものにならない差がある。
 綾乃は王先生に信仰に近いような神々しさを感じてしまった。
 内気な綾乃は自分でも信じられないくらいの積極さで、中国文化研究会に入会する気持ちを固めていた。

 綾乃は授業が終わると、一人気合を入れカバンを持ち、三年生のクラスへと向かった。詩織のクラスは事前に調べてある。教室の場所も確認済みだ。
 心臓がバクバクしているのが自分でも分かるくらい興奮しながら歩いた。すれ違う上級生の視線が怖いので下を向きながら、ただただ歩いた。
 詩織のクラスへ着くと、運が良いことに戸は開いたままだった。中を除くと、すぐに詩織が見つかる。クラスメイトとおしゃべりをしている。椅子に座った詩織を中心に数人が取り巻いている。単におしゃべりしているだけでも詩織の周りには華やかな空気が流れているようで、簡単に見つけることができた。詩織はどこにいてもグループの中心になってしまうのだろう。
 戸の影から中をのぞき込んでいる新入生らしき女の子を見つけ、親切な生徒が声をかけた。
「誰か探してるの」
 綾乃は驚いて体がビクーッと反応してしまう。そして反射的に答えた。
「三原先輩にお話があります!」
 思わず声が大きくなってしまう。
 その声が届いたのか詩織は振り向き、綾乃の姿を認めると、立ち上がって近づいてきた。
「私に何の御用かしら」
 詩織は綾乃を怖がらせないよう、やさしく声をかけた。
「あっ、あ、あ、あの……、あ……」
 もう綾乃は完全に固まってしまって、話すことができない。パニック状態だ。
「そんなに緊張しなくて良いのに。じゃあお話しやすいように、もう少し静かな所へ行きましょうか」
 詩織はカバンを取ると、綾乃を連れて歩き出した。
 綾乃は急な展開に頭が付いていかず、黙って詩織の後を付いていくだけだ。
 二人は綾乃が初めて歩く廊下を通り、ある部屋の前に着いた。部屋には国語資料室のプレートがかかっていた。
 詩織は慣れた様子で鍵を開けると、綾乃を中へ招き入れる。部屋の中は壁面に本棚が並び、本で埋まっていた。真ん中に折りたたみ式の会議机と椅子が数客置かれている。
「この部屋を掃除する代わりに、自由に使わせてもらっているの」
 そう言って、綾乃へ椅子をすすめ自分も座った。
「それで、話って何かな」
 詩織はできるだけ優しい口調で綾乃に話しかけた。
「わ、わ、私、私を、中国文化研究会に入れてくださいっ!」
 綾乃は詩織の顔を見ることができず、下を向いたまま、人生最大の勇気を振り絞って答えた。鏡を見ないでも自分の顔が真っ赤になっているのが分かっていた。こめかみをドクドクと血液が凄い勢いで流れている。
 詩織は少しニヤついた感じで、綾乃の事を見る。
「研究会の事をどこで聞いてきたの」
 ねっとりした絡みつくような声が綾乃にかけられる。入学式のときに聞いた、凛としたすがすがしい声とは違っている。
「同じクラスの子が話してるのを聞きました」
「そう。それで、どうして入りたいと思ったの」
「入学式で三原先輩を見て、もっとお話したいと思ったからです」
 綾乃は正直に答える。理由を聞かれるのは分かっていたので、事前に色々考えてきていたが、そんなものは詩織に話しかけられた時点で全てどこかへ行ってしまっている。
「それだけ?」
「え、その……、王先生が顧問らしいって聞いて。王先生ともお話したいと思いました」
「私や先生と何の話をするの」
「そ、そこまでは、考えてないですけど……」
「ふーん。じゃあ、この会は入会を断ってるって聞かなかった」
 詩織は立ち上がり、綾乃のほうに回りこみながら、畳みかけるように質問を続ける。
「聞きましたけど。どうしても先輩や先生と親しくなりたくて。ダメ元だと思って……」
 綾乃の声はどんどん小さくなる。顔も完全に下を向いている。恥ずかしくて、もう顔を上げることはできなかった。
「この会は私が親しい人と個人的に楽しい時間を過ごすために作った会なのよ。今日始めて会う貴女を入れてあげるのは難しいわね。それに貴女だけを入れたら、他の入会希望者の人が可愛そうでしょ」
 もっともな事を言われて綾乃は一気に力を落としてしまう。ダメ元だとは思っていたが、万が一入会できたらと色々想像して浮かれていただけに実際に断れるとショックが大きい。
 綾乃ががっくりうな垂れていると、詩織が肩に手を置いた。
「でもね、ほんとは一年生からも一人を選ぶつもりだったの。そうすれば各学年一人になるでしょ。私が卒業して、この会がなくなると寂しいからね。でも先生ともう一人のメンバーには話をしていないから、話を聞いてみようか」
 一転して希望が出てきて、綾乃は思わず顔を上げた。すぐ横に詩織の顔があり、驚いて、またすぐに下を向いてしまう。その顔はますます赤くなっていた。
「じゃあ、先生に聞いてくるから、ちょっと待っててね」
 詩織は綾乃の耳元でささやくように話す。綾乃は縮こまってしまう。
 そして詩織は隣の部屋へ続くドアを開けて姿を消した。
 数分の間綾乃がドキドキしながら待っていると、すぐに詩織が戻ってきた。綾乃がドアの方を向くと、詩織の後ろには王先生が居た。
(なんで王先生が。まさか、隣の部屋は王先生の部屋)
 隣の部屋が何の部屋か確かめなかったが、国語資料室の隣が国語教員の部屋というのは十分ありえる。まさか王先生が来るとは想像していなかった。先生のありえないくらい美しい顔が自分の方をまっすぐ向いているのを見て、綾乃はしゃべることもできずに固まってしまった。
「こんにちは。お名前は」
 王先生が大人のしっとりした声で話しかける。流暢な日本語で、外国語訛りはかすかにしか感じられない。
「佐伯綾乃、一年A組です」
 綾乃ははじけるように答えた。先生が近くに居るだけで緊張してしまうのに、話しかけられて心臓は人生最大の速さで鼓動を打っている。頭に血が上り、カーッとなり、軽いパニックになってしまう。
「綾乃さんね、そんなに緊張しなくても良いのよ。詩織さん、こんな可愛い子を独り占めしたらいけません。可愛い子はみんなで共有しないと」
 王先生は後ろから綾乃を抱きしめた。
 綾乃の背中に柔らかいものが押し付けられた。鼻には艶かしい大人の香りが漂ってくる。両腕が前に回され、体を固定されてしまう。
「先生ダメですよ。綾乃は私の所に来たんですから、私が先です」
 詩織は両手で綾乃の頬を優しく挟むと、チュッとキスをした。
 綾乃は詩織の顔が近づいてきて、唇に柔らかいものが触れて一瞬何が起きたのか分からなかった。
(な、な、な、な、なにー、今の何ー。キス。キスされた?)
 ただでさえ美女二人に囲まれて舞い上がっていたところへキスをされて完全にパニックになってしまう。
「うふっ、チューしちゃった。初めてだった?」
 綾乃は半ば呆然としながらコクコクとうなずいた。驚きで声が出ない。
「きゃー、うれしい。綾乃ちゃんの初めてをもらっちゃった」
「詩織さん、ずるいです。私もします」
 王先生は綾乃の顔を横に向けると、後ろから体を乗り出して綾乃にキスをした。詩織の触れるだけのキスと違い、ハムハムと食べるようにキスをする。
 綾乃は完全に茫然自失でされるがままになった。目を開いたままで、薄く化粧をした先生の顔を直近でぼんやりと見るだけだ。先生の鼻息が頬に当たり、んふぅーというこもった声が遠く耳に聞こえる。
 王先生はひとしきり綾乃の唇を味わってから口を離した。
「綾乃さんの唇は美味しいですね」
「先生ずるーい。私は軽くしかしなかったのに。じゃあ私も」
 詩織は再び綾乃の顔を自分に向けると、濃厚なキスを始めた。唇をこじ開けると、舌を差込み綾乃の舌と絡める。
(舌が……。先輩の舌が入ってきてる)
 綾乃は舌をもてあそばれ、だんだん興奮してくる自分を感じていた。
(女の人にキスされてるのに、気持ち良い。どうして。キスってこんなに気持ち良いものなの)
 綾乃は頭がぼーっとしてきて、体中が熱くなってきた。それに体がうずうずしてくる。何か叫びたくなるような、思い切り暴れたくなるような、初めての感覚だった。
 詩織の舌は、自分の舌と絡んでくるだけではなく、歯茎やあごの裏など口中をくすぐってくる。じれったいような気持ち良さが、どんどん強くなってくる。
「ん、んん……、んふぅ、んんんぅ……」
 綾乃の喉の奥から声が漏れる。同時にどうして良いか分からず、思わず詩織の体に抱きついてしまう。胸が詩織の胸で潰され、柔らかさを感じるとともに、成長途中の乳房からかすかな痛みが湧き上がる。背中にも先ほどからずっと先生の豊かな胸を感じている。
 今まで親しい友人がおらず、女同士で抱き合ったことがない綾乃は女性の体の柔らかさに驚いた。
「ほんとに可愛いわね。そんな初々しい反応されたら、食べちゃいたくなるわ」
 王先生が耳元でささやく。
 詩織が綾乃の口を堪能して口を離すと、代わりに先生が前に回ってきて綾乃の顔を胸に抱き寄せた。片手で綾乃の頭を撫でながら、優しく話しかける。
「これで綾乃さんも、研究会の仲間ね。私のことは香《かおり》と呼んでください」
「王先生は本当の名前を中田香というの。中国から日本に帰化されて日本人になられたけど、普段は元の名前を使われてるの」
 綾乃が説明してくれる。
「香先生……」
「うふっ、今度歓迎会をしましょうね」
 綾乃は香の豊満な胸に抱かれ、夢の中に居るようだった。香の胸はとても柔らかくて暖かかった。

 そこから先の事を綾乃ははっきりとは覚えていない。
 唇に付いた口紅を先生にぬぐわれ、身だしなみを整えられてから、詩織に寮まで送られた。そしてベッドに寝かされる。詩織は何か声をかけたような気がするが、耳を通り過ぎてしまい、覚えていない。一人ベッドで横になりながら、呆然としていた。
 綾乃に思考能力が戻ってきたのは、かなりの時間が経ってからだった。窓の外はすっかり暗くなっている。夕食を食べ逃してしまったが、お腹はすいていない。
 我に戻ると、興奮と恥ずかしさで、居ても立っても居られない。ベッドの上で一人身悶える。
(しちゃった。先輩と先生とキスしちゃった)
 年頃の女の子である綾乃は、それなりにファースト・キスの事を想像していた。男は好きではないが、いつか素敵な人が現れたらロマンティックなキスしたいと思っていた。それが突然、憧れの先輩と先生にキスされるとは思ってもいなかった。
 女性同士だというのに不思議と嫌悪感は無かった。逆に嬉しいくらいだった。柔らかい唇と気持ち良さを思い出すと、再び頭に血が昇り、体が熱くなってくる。
(したんだ。あの理想の先輩と、今まで見たことが無いような美人の先生とキスをしたんだ)
 思い出しても信じられない。夢だったかと疑ってしまうほどだ。だが、唇には二人の柔らかい感触が残っている。詩織にくすぐられた口の中の感触も残っている。
(キャー、キャー)
 綾乃は大声で叫べない代わりに心の中で叫んだ。興奮してどうして良いか分からず、狭い部屋の中をうろうろと歩き回った。一人部屋で良かったとつくづく思った。もし二人部屋なら、同居人に頭がおかしくなったかと心配されるところだ。
 そして、綾乃は机の上にメモがあるのに気が付いた。詩織からのものだった。
『夜になったら私の部屋に来てください』
 部屋番号と詩織の名前とともに綺麗な字で書いてあった。
(行かなきゃ)
 綾乃の頭の中には詩織の指示に従うことしかなかった。詩織の命令は絶対だ。
 急いで制服を脱ぎ、部屋着に着替える。何を着ようかと悩んだが、だらしないのもダメだし、仰々しすぎるのも良くないと、ブラウスとカーディガンに膝丈のスカートを選んだ。
 着替え終わると、綾乃は急いで詩織の部屋へ向かった。途中他の寮生ともすれ違ったが何も言われなかった。下級生が先輩の部屋を訪ねるのは、珍しいことではないようだ。
 目的地に着き、綾乃がドアをノックすると、一呼吸間をおいてからどうぞと返事が返ってきた。
 ドアには鍵がかかっていなかったので、綾乃はそのまま中へ入った。
 部屋の造りは綾乃の部屋とほとんど同じで、ベッド、机、小さいテーブルが置かれている。違うのは、綾乃の部屋はドアを開けるとすぐに部屋だが、ここには2メートルくらいの短い廊下がある。
 入学手続きの説明のときに、部屋にはいくつかのグレードがあるのを聞いた。二人部屋もあったが、人見知りの激しい綾乃の事を考え、母親が一人部屋にしてくれたのだ。おそらく、廊下の横にはバストイレユニットがあるのだろう。
 綾乃は詩織に手招きされ、ベッドに並んで腰掛けた。
 詩織はパステルカラーのカットソーに、ミニスカートをはいている。うつむいていると、視界の隅に詩織の程よい太さの白い太ももが目に入り、綾乃はドキドキしてしまう。
「さっきはごめんね。軽い気持ちでキスしちゃったけど、嫌じゃなかった?」
 詩織が覗き込むようにして、綾乃に尋ねる。
 綾乃はふるふると頭を振った。
「嫌じゃなかったです。初めてが先輩で、嬉しかったです」
 綾乃は聞き取るのが難しいくらいの小さな声で答えた。
「いやぁー、うれしいー。綾乃ちゃんが綺麗だから、つい、かわいがってあげたくなったの」
「いえ、そんな、先輩の方がもっときれいです」
「そんなことないわ。私より綾乃ちゃんのほうが、ずっと綺麗よ。それに、いまからもっと綺麗になるわ」
「わ、わたしなんか、性格暗いし、友達も居ないし……」
 詩織は綾乃の頭をやさしく抱きしめて言った。
「そんな自分を卑下することはないのよ。綺麗なことは良いことなの。好きな人から綺麗って言われると嬉しいでしょ。だから、もっともっと綺麗になれば良いの。そんな綾乃ちゃんを丸ごと愛してくれる人がいつか現れるから心配しなくて良いのよ」
「せ、先輩……」
 詩織は綾乃の頭を優しく何度も撫でる。
「可愛そうに、綾乃ちゃんは可愛いから、いじめられちゃったのね。子供の頃はどうしても好きな子をいじめちゃうからね。でも、もう大丈夫よ。この学校は良い人ばっかりだから。すぐに友達もできるし、楽しくなるわよ」
 綾乃は短い会話の中で自分の事を全て理解してもらえたような気がして嬉しくなり、思わず涙が溢れそうになる。
「あらあら泣いちゃダメよ。女の子の涙は強力な武器なんだから、ここぞというときにしか出しちゃだめ。秘密兵器として大事に取っておきなさい」
「先輩……」
 綾乃は涙声になってしまう。
「先輩っていうのも、他人行儀だわね。私のことは詩織って呼んで、私も綾乃って呼ぶから」
「じゃ、じゃあ、詩織先輩……」
「良いわよ。綾乃、今日はこの部屋に泊まっていきなさい。綾乃のこと、もっと色々知りたいし。いっぱいお話しましょう」
「良いんですか」
「大騒ぎしたり、生活に支障が出なければ良いのよ。他の人の部屋に泊まったらいけないなんて規則も無いし」
 綾乃は急な展開に付いていけないまま、詩織の部屋に泊まることになった。今まで友達の家にすら泊まったことのない綾乃にすれば大事件だ。
 そして綾乃は詩織と夜遅くまでおしゃべりを続けた。実家のこと、両親のこと、好きな本のことと話は尽きなかった。詩織は人の話を聞くのが上手い上に、知識や理解力があるので、綾乃は話していてとても楽しかった。今まで友達とおしゃべりができなかった分を取り戻すかのようにしゃべりまくった。
 途中、詩織がお茶を入れてくれたので、休憩を挟みながら二時間近く話し続けた。
 そして、綾乃は詩織の話を聞いているうちに、いつの間にか眠ってしまった。

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